渋谷くんの恋人(前編)




−ありえない。いや、今風に言うとありえなーい、だろうか。

とりあえず女子高生風に驚きを表してみる。だが目の前の現実に変化はない。

『ユーリ!』

ソプラノ声が部屋に響く。

謎が多い世界だ。何が起こっても今じゃそうは驚かない。だけど。

このミニミニヴォルフは一体…何だ?









『おい!』

ベッドの上で仁王立ちをするヴォルフ。生意気なのはいつものことだ。だがその身体は、何故かリカちゃん人形。いや、それよりふた回り程小さい。

「何で小さいんだ…?」

『ぼくに分かるもんか!』

アルト声は小さくなった為にソプラノになり、美少年度が余計にアップしている。だが今は天使というよりかは、妖精のようだ。

『おい、ユーリ!』

「あ、ああ」

『これはきっとあの魔女の仕業だ!』

……アニシナさんか。

「何か心当たりでもあんの?」

『……飲み物をもらった』

何か怪しいものに違いない。まったく、あの人の発明作品に関わるとロクな事がないのに。

「で、それを飲んだら縮んだと」

『…いや、転んだ拍子にあっちからふりかかってきたんだ』

浴びちゃったわけね。

「でもよくここまでこれたな?ちっこいままじゃ大変だったんじゃねェ?」

リカちゃん人形マイナスふた回りくらい小さいヴォルフは今おれのベッドの上にいるが、一体どうやってベッドの上まで来たのだろう。

『ああ、それなら心配ない』

そう言うとヴォルフは、ふわりと宙に浮いて、おれの目の高さまで上がった。

「と、飛んでる!?」

その姿は本物さながらの妖精。
ふわふわ浮かびながらヴォルフは『手』と言う。慌てて両手を差し出すと妖精ヴォルフはその上に舞い降りた。心なしかティンカーベルの金の粉が見えるようだ。
空飛べちゃうやつね。

『何故か飛べるようになっていたんだ。だが』

ヴォルフはおれの手の上でふぅ、と息を吐く。

『少し体力を使うみたいだ』

なるほど、空を飛ぶというのはなかなか力仕事なんだな。

「う〜ん、じゃあ早く元に戻らないとな。アニシナさんを探さなくちゃ」

『ぼくも行くぞ!あの魔女に一言行ってやらないと気がすまないからな!』

「はいはい」

そう言うとおれはヴォルフを胸ポケットに入れた。

『な、何するんだ!』

ソプラノがポケットから響く。

「だって飛ぶの大変なんだしここに入ってた方がいいだろ?」

『…っ、そういう事じゃ…』

「しっ、誰か来た」

怒るヴォルフを黙らせると、部屋に誰かが入ってきた。というかなぜヴォルフを隠そうとしてるんだ?

「陛下!」

ギュンターだ。今日もご機嫌麗しく、美しさに磨きがかかっている。

「あ、ギュンターおはよう〜」

取りあえず挨拶でも。

「おはようございます陛下。今日も一段とお美しい…はっ、そうではないのです!陛下、ヴォルフラムを見かけませんでしたか?」

いきなり来ましたか!

「いや、何で?」

「昨日から様子が見あたらないと連絡があったのですが…」

「…いや〜、わからないなあ」

何故か曖昧な返事をしてみる。

「今日までに出していただかなければならない書類があったので探していたのですが…ここにはいないようですね…」

『あ!忘れてた!』

オイッ、喋るな!

「ん?今何か聞こえませんでしたか?」

ギュンターがきょろきょろと周りを見渡す。

「え?お、おれには何も?ギュンター幻聴でも聞こえたんじゃないか?」

『ぼくの机の上に置いてあるぞ!』

「ん?また…」

「え?あ、思い出した!ヴォルフが書類は机の上にあるって伝えておいてくれって!」

ギュンターの言葉を遮るように喋りまくる。怪しくない程度に笑顔もつけて。

「え、そうなのですか?」

「うん、ヴォルフどこかに出かけたんじゃないかな?俺に言付けるくらいだし」

お、我ながら上手い言い訳じゃん?

「…そうですか、ありがとうございます陛下。助かります。」

「うん。あ、アニシナさんがどこにいるか知ってる?」

「アニシナですか?多分血盟城にいると思いますが…何か御用でも?」

あの毒女に用とは珍しい、というような瞳だ。

「うん、ちょっとね」

言いながら、ギュンターの目の下にまつげがついているのを見つけた。凄く長い。このまつげさえもオークションに出せば高値で競り落とされそうだ。
おれは手を伸ばしてそれを取ろうとする。

「陛下?」

「あ、ちょっとじっとしてて」

ちょっと背が高すぎて俺の高さじゃツラい。

「ギュンター、少し屈める?そう、も少し」

ギュンターをしゃがませて指で頬に触れる。

「ッ、へへ陛下!?なななななななにしてるんですかか?」

ギュンターが突然壊れそうになる。

「へ?…ギャー!」

ギ、ギュン汁が!!!
エグい展開にとっさに離れる。ついでにまつげも取れた。

ギュンターはハンカチで鼻下に垂れたギュン汁を拭く。何故いきなり…

「グエッ!」

CMのアヒルの様な声を出しておれは前屈みになった。突然心臓部分を殴られたからだ。

「陛下?どうしました?」

ギュン汁を拭い切れないギュンターが近づく。ひぃ。

「いや、ギュン汁に驚いてッ。つーかギュンターなんで鼻血出してるんだよッ」

「…それは…陛下のお顔が余りに近くにありましたので…つい…つい…うっ」

「へ?」

ギュンターがボソボソと呟いたため、何と言ったか聞こえなかったが、また新たなギュン汁が流れ出てきたのを見てヤバいと直感した。

「ギ、ギュンターさん?」

どうしよう、と思ったがラッキーなことに今日のギュンターは忙しいらしかった。侍女らしき人がギュンターを探している。

「ギュンター様!」

恐る恐るおれの部屋を覗いた侍女らしき人は、ギュンターを見つけるとおれにお辞儀をした後ギュンターを連れて行った。早く鼻血を止めてやってくれ。
ギュンターがいなくなった部屋でふぅ、とため息を吐く。

『ユーリ!』

ミニヴォルフが胸ポケットから頭を出して叫ぶ。

「あ、ヴォルフ何すんだよ!いきなり蹴るなよなッ」

『なんだと?お前がギュンターに近づくからだろうがっ!この尻軽ッ』

フットワークがよくて何が悪いんだよ?おれはミニヴォルフを見る。何かキラキラしたオーラが見えてしまいそうだが、錯覚錯覚と言い聞かせる。

「あれはまつげを取ろうとしただけ!ギュンターもギュンターだよ、全く」

あともう少しでギュン汁まみれになる所だった。想像しただけで悪寒がする。

『まつげだろうが何だろうが知らんが、そういう行動は慎めッ。お前はぼくの婚約者なんだからな!』

このわがままプーっぷりは小さくなっても変わらない。寧ろ声が高い分パワーアップしている気が。

「だからあれは事故だって…まぁ、聞いてねーか」

言いたい事を言ったプーはむくれてポケットの中に身を潜めてしまった。まったく、八十二にもなってわがままなんだから。

「とにかくアニシナさんを探しに行こう」

おれはミニヴォルフにこれ以上突っかかるのは止めた。昔よりか数段大人になった気がする。やはり子供を持つと違うもんだな。
おれ達(というか傍目から見ると俺のみ)は部屋を後にした。早くヴォルフを戻さないと日常生活に支障をきたすし。

「そうだ」

歩きながらポケットの中に話しかける。

「誰かに会ったとき、ややこしくなるからヴォルフは黙ってろよ」

『………』

返事がない。ただのミニヴォルフのようだ。
…じゃなくて。なにブーたれてるんだよ。俺は立ち止まってまたポケットを見る。

「ヴォルフ、ブーたれるなよ」

ポケットの中から明らかに怒っている声が聞こえた。

『…拗ねてなんかない』

嘘つけ。何に怒ってるのか知らないけどまったく子供みたいなオールドエイジだ。

「そう?」

いつもなら目の前でキレられるからたじろいでしまうのだが、今日は小さいから怖くない。しかもティンカーベルがピーターパンに怒るくらいの可愛いモンに聞こえるし。
うん、なかなか小さいのもいいんじゃん?
そう思っていたら向こうから誰かがやってきた。

「ユーリ」

コンラッドは人当たりのよさそうな笑顔を浮かべながら歩いてきた。爽やかさは彼の特権だ。

「あ、コンラッド」

俺の前で立ち止まるとコンラッドはポケットから包みを出した。

「丁度いいところに」

柔らかく笑いながらコンラッドはそれを見せる。

「ん?何それ」

「ユーリに見せようと思っていたんですよ」

そう言って包みを開けると、そこには色とりどりのビー玉が。

「ビー玉じゃん、懐かしいなー」

よく遊んだよなぁ、と触ってみると手触りが違う。ぷるん、としたゼリーみたいな感触が伝わってきた。

「な、何コレ?」

「これは卵なんですよ」

「卵!?」

「うん、しかも妖精の」

「よ、妖精!?」

胸ポケットに妖精もどきを隠しているからまたびっくりだ。いや、別に妖精じゃないんだけど。

「セントチヒロっていう妖精なんです。体から溢れる金の粉をかけると、かけられたものが無くなってしまうと言われてるんですよ」

それって神隠し?宮崎駿もびっくりだ。

「実際金の粉を見た人はいないんですけどね」

「そうなんだ…それより妖精って卵から産まれるのか?」

「不思議な生物ですから産まれ方も様々なんですよ」

なんだかツッコミ所満載のビー玉卵。キラキラ光っていて、赤や青や、複数の色がある。

「この妖精っていつ孵化するの?」

「それがどうやら今日の晩らしくて。孵化させてから放してあげようかと思っているんです」

微笑みながらそれをそっと包み、大切そうにまたしまった。

「へぇ、じゃあ放す前におれにも見せてくれよ!」

どんな妖精なんだろう。虹色だったりして。

「そう言うと思った」

「え?」

コンラッドがおれを見透かしたように微笑んだ。

「だからユーリに見せたかったんですよ」

喜んでくれると思ってね、と付け足して。おれの思考って筒抜けなのかなぁ。

「コンラッドは何でもお見通しなんだな、嬉しいよ」

流石名付け親。おれの事よくわかってるじゃん。

「名付け親ですから」

当たり前でしょ、というように微笑まれると何だか嬉しくなってしまう。おれの事理解してくれてるっていいよな。

「そっか、…イテッ!!」

「ユーリ?どうしました?」

またヴォルフか!

「いや、ちょっと心が痛んだだけ」

なんだこの言い訳。

「ヴォルフに何か隠し事でも?」

クスクス笑いながら名付け親は腕を組む。

「いや…おれには何も覚えが…ッ!」

またつねられた。ん?どうやってつねってるんだ?

「?平気ですか、ユーリ?」

何かおかしいと気づいたコンラッドはおれの目線の先に胸ポケットを見つけた。

「…胸ポケットに何か隠してるんですか?」

楽しいものでも見るような目だ。

「え?なな何も隠してなんかないよ?」

マズい、声が上擦った。コンラッドはやっぱり、という表情を浮かべる。

「顔に出てますよ」

「そ、そう?」

どうもコンラッドの前だと隠し事が出来ない。

「…見たい?」

「見せてくださるなら」

怪しいものを入れてるわけじゃないと知っているのか、どこか余裕の表情。けどおれが勝手にヴォルフをつまみ上げたら怒るだろうな。
おれはポケットを覗く。

「だってよ?」

『………』

返事はない。今日のプーは虫の居所が悪いのか。

「おーい、何か言えよ」

『…喋るなと言っただろう』

うわ!コイツいくつだよ!さっきのおれの言葉にまだ怒ってるとか?

「まだ拗ねてるのか?」

『……うるさい』

あーもうなんだかなー。なんだってこの人は拗ねてるのさ。

「悪いコンラッド、嫌だって言われちゃった」

「でしょうね」

「へ?」

「あ、そうだ」

思い出したように言うと、コンラッドはさっきの包みを取り出して、水色のビー玉卵をひとつおれに差し出した。

「ユーリにひとつ渡します、厚めの布の上に置いておけば自然に孵化しますから」

そう言うとおれの手のひらにそっと置いて、胸ポケットに向かって話しかけた。

「そんなに心配しなくても本人は何もわかっていませんから。あまり拗ねると嫌われちゃいますよ」

『!』

「え?」

最後に小さく何か呟くと、何でもお見通しの名付け親はおれに向き直る。

「ではユーリ、明日孵化したら持ってきてくださいね」

「あ、ああ」

それだけ言うとウェラー郷はスタスタと行ってしまった。後に残されたおれはしばし呆然。

「…コンラッドは気づいてたのか」

一体どこまでお見通しなんだろう。そう考えてるとミニヴォルフがひょい、と頭を出した。

『キレイな卵だな』

「お、機嫌直ったのか?」

『だから拗ねてなどいない。ユーリが黙ってろと言ったから黙ってただけだ』

「だーかーらー、それが拗ねてるって事だろ?…まぁ争ってても仕方ないか」

どうせプーが折れる事なんてないんだし。
おれがヴォルフの手が届く所まで卵を持っていくと、ヴォルフは小さな指でそれを触ってみる。

「変なカンジだろ」

『これから妖精が産まれるとは考えられないな』

「おれは妖精が本当に居るってのが信じられないけど」

『お前の育った国には妖精は居ないのか?』

「いないよ、空想の世界のキャラだし。たまに机の中に妖精がいたんです、とかいう奴はいたけど」

天然だと思ってたら意外としっかりしてたあのアイドル。

『机の中に妖精は入らないだろう。大抵妖精は酒樽の中にいるものだ』

ツッコミ所違うし。しかも、妖精が酒樽にいるのもおかしい。

「まだまだカルチャーショックな事ってあるんだな…」

『かるちゃあしょっく?』

「いや、こっちの言葉」

呟きながら卵をそっとしまう。一瞬考えて、胸ポケットにわざと入れてみる。

『な、何だッ!?』

「へへっ、ヴォルフと一緒に入れといてくれよ」

『なんでぼくがこんな得体のしれないものと同居しないといけないんだッ』

「妖精同士、いいんじゃない?」

『ぼくは妖精じゃないぞッ!あんな酒飲みと一緒にするな!』

妖精って大酒飲みなのか。

「でもさ、俺へなちょこだから転んで潰したらヤバいし。ヴォルフなら守ってくれるかなって」

『ユーリがへなちょこなのは知ってる。…まぁ、そう言われれば一緒にいてやらなくもないが』

一言多いがおだてに弱い三男を上手く扱えたのはこれが初めてかも。
ミラクルな展開についつい笑ってしまう。

『なにうすら笑い浮かべてるんだ』

「うすら笑いですか…」

情けないため息を吐きつつ、怪訝な表情のヴォルフを胸に入れたまままた歩きだす。しかし、その足はすぐに止まる事になった。

「ユーリ」

この腰にくる重低音は。後ろを振り返ると、眞魔国似てないようで実は意外に似てる三兄弟の長男、フォンヴォルテール卿グヴェンダルが、怪しいぞお前とでも言いたげな表情で立っていた。

「あ、グヴェンダル」

ヴォルフが慌てて体を引っ込める。無理もない。慕っている兄だけにはこんな姿見られたくないだろう。

「そんな所で突っ立って何をしてるんだ?しかも独り言ばかりぶつぶつとうるさいぞ」

うわー怖ッ!テメェ何やってんだコラ、と言われたみたいだ。すすすすいませんすいません。

「いやーそこまで怪しかったかなーおれ」

棒読み状態で情けない。だって怖いんだもん。

「お前がおかしいのはわかっている。…ん?今ポケットから何か覗かなかったか?」

へ?慌ててポケットを見るとヴォルフが卵と格闘していた。卵を足場にしていたから、急に引っ込む事は難しかったらしい。卵をどうにかずらそうと必死になっている。

「…何か入れているのか?」

「え?ええと…いやー今日もいい天気でしたねー」

どうにかはぐらかしたいがグヴェンは見逃してはくれない。

「そのポケットに入るサイズは…小さいものか」

「そ、そうそう妖精…じゃなかった。妖精より可愛らしいものかな?」

『おい!ユーリ!』

超小声のソプラノ声が叫んだ。

『可愛いとか言うな!兄上がっ…!』

「あ」

そうでした!この仏頂面長男はちーぃさくてかわいらしーぃもの好きでした!そしておれは今爆弾発言をしてしまった。

「…見せてみろ」

グヴェンを見ると、重みのある仏頂面だ。しかしその心中はわくわくとウズウズとドキドキが混ざったメリーゴーランドみたいな展開になっているだろう。いや、ならないはずがない。

「いや、これはちょっと…」

一歩後ずさると一歩近づいてくる。こ、怖いですグヴェンさん。

「どんなに小さくて可愛いものが入っているか見せろ」


ああ、見せてほしくて仕方ないって顔してますよ。その間にもポケットの中ではヴォルフVS卵の戦いが繰り広げられているみたいで。こりゃ、逃げるしかないですか?
グヴェンダルの魔の手から逃げようときびすを返した瞬間だった。

「おや、陛下にグヴェンダル」

「わッ!」

真後ろに突如あらわれたフォンカーベルニコフ卿アニシナ嬢に驚いたおれは、そのままアニシナさんの靴に躓いた。

「ひいッッ!」

そしてそのまま床にダイブ!?
それよりこのままいくと胸ポケットの妖精'Sの命が危ないッ!しかしそんな暇ッ……!

べったん。

べったら漬けみたいなしょぼい音と同時におれはすっ転んだ。おれは西京漬けは嫌いです。
痛さを感じる前に、胸ポケットの行方を思い出した。

「ヴォルフ!?」

『なんだ、へなちょこ』

「おや、ヴォルフラム。なぜ小さくなっているんです?」

騒ぎの原因を作った張本人はあくまで冷静だった。

「っ、あぁ〜よかったぁ」

ミニヴォルフは卵を抱えて間一髪でポケットを脱出したらしく、ふわふわと宙を浮かんでいた。

「ヴォルフラム…?」

グヴェンダルが驚いた様にヴォルフラムを見る。手がわなわなと震えている。

『はい、…兄上?』

グヴェンダルが手を差し出すと、ヴォルフラムがそこにとまった。というか、疲れていたのでとまらざるをえなかったのだ。

「か……か…」

きっとグヴェンの目には手のひらに舞い降りた妖精に見えたはずた。しかも超美少年のミニ版。可愛らしさにも拍車がかかる。だかこのままにしておくとかなりヤバい展開になりそうだ。
[スクープ!眞魔国の真実・実の弟に恋をする兄…!]そんなフレーズが浮かんだおれは、転んだ痛みに浸る暇もなくグヴェンの手からミニヴォルフを奪い返した。
可愛いのわの字を言わせる前でよかった。

「…危なかった」

なんとなく世界を救った気分。

「グヴェンダル。いくら可愛いものが好きだからと言って自分の弟までそういう目で見てしまったらお終いですよ」

ど、どういう目だろう。アニシナさんはグヴェンに哀れみの目を向けてから、おれ達を見た。

「さて、どうしてこんな展開になっているのですか?」

『どうしたもこうしたもああしたもないッ。お前の作った薬を浴びたらこうなってしまったんだッ』

やっと会えたが百年目、という表情でアニシナさんに食ってかかる。

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