night and You





きみに抱かれていられるなら、何も怖いものなんて。




「夜は怖いものだと思ってた」

「どうして」

「何故かなぁ、多分独りぼっちだったんだよ」

もぞ、とシャツに鼻を擦り付けるように身を捩りながら言った。
柔らかな日差しが彼の髪を暖かいカイロにしてくれる冬の午後。
一人分のベッドに身を寄せて抱き合うことは気持ちよかった。
ただ僕達は何をするでもなく、上着だけを脱いで寝転んでいる。
僕は渋谷を、渋谷は僕を抱きしめあう形で。
そして眠ってしまうのであればそれはそれでよかった。

「独りぼっち」

渋谷が言うとその単語はやけに大袈裟な気がして、思わず自分のセリフに苦笑した。
胸の中で漏れた息は渋谷を暖めるだろう。
僕はそんな、自虐的になる気も自棄になる気も無いのにな。

「脚色」

「おれには解らないけど、気を張るなら間違いだぜ」

「言うねぇ、渋谷」

本当に、と心の中で思いながら顔を上げる。いつからこんなに彼に癒されるようになったんだろう。
本音を黙って受け止めてくれる人なら誰でも良いわけじゃない。
欲しい答えを言ってくれる人なら誰でも良いわけじゃない。
何故だか解らないけど、彼なのだ。

「だって、村田に絶望なんかしないもん」

恋をするメカニズムは何千年生きてもずっと解らないままだ。
そのまま泣きたくなる気持ちを抑えて、代わりにそっとキスをした。
随分解り易いことをしてしまった、と考えたけど、自分らしさを保たなくてもいい事に気付く。
夜は確かに怖かったのだから。
今は確かにキスをしたかったのだから。
自分本位に動いていいのは、渋谷の前だけ。
特別なんだな。

「僕だって、絶望なんかしないよ」

言い切ることがこんなに清清しい事なのも、多分渋谷の前だからであって。
確かめるように温かな彼の髪に指を通した。
好きなんだ。
希望を持つことが絶望に繋がるならこの先ずっと、僕は渋谷に希望を見出さないから。
だからもう少しだけ抱きしめていてよ、そしたら





うん、もう怖くない。





end.