あんえいぶる・りーど
「今日はな、ぼくがユーリを気持ちよくさせてやるぞ!」
「は?」
―be unable to lead―
わがまま天使ヴォルフラム(82)は魔王専用ベッドの上でふんぞり返った。
こっちと言えば風呂上りの濡れた髪を拭きながら、ちょっとストレッチでもやろっかなーと思っていたところだったので相当ボケた顔になってしまった。
「ユーリ、何だその顔は!」
眉根を寄せて大声を出してくるヴォルフに少々気が抜ける。
これがいつもの顔ですが何か?
「そっちこそ、いきなり何だよ」
「別にいいだろうが。今日がそんな気分だっただけだ」
ひらひらのネグリジェをふわりとさせてベッドに女の子みたいに座る。
ふぅとため息を吐いておれもベッドに上がると、近くに座って相手を見た。
「何か唐突だなー…誰かに何か言われたの?」
「いきなり言い出したら悪いとでも言うのか?」
「いや、そうじゃないけどさー」
村田とかが絡んでたりするんじゃないかなーって思うわけで。
そんなおれの気持ちを察知したのかヴォルフが唇を尖らせる。
「…言っておくが猊下ではないぞ」
「ふぅん?」
「…この本だ」
信じていませんって目を向けると、しぶしぶベッド脇の机から一冊の本を取り出しおれに渡す。
タイトルを読もうとしたけど見たこと無い文字が出てきて良く解らない。
「なぁ、何て書いてあるんだ?」
「………『性行為実践パターン100』だ」
「へぇ……性行為……ってええ?!」
とんでもないタイトルに一瞬流してしまうところだったが…性行為実践パターン100だと!?
そんな、日本だって48手までしかないと言われているのにこっちでは100通りもあるのか!
「ヴォルフ、これどこで手に入れたんだよ」
「書庫室の母上秘蔵の本棚からだ。今日白鳩便が来てな、この本を読んでみろと書いてあったんだ」
「…ツェリ様かよ〜」
がくっと力が抜ける。そりゃ自由恋愛主義者ってのは解るけど息子にこんな本読ませるなって!
手に持ったままの本をペラペラと捲ってみると、ご丁寧にイラスト付きでた…体位の解説が載っている。なんだってこんなもの…。
半ば空しくなったまま本を閉じると声が掛けられた。
「ユーリ」
「へ…んっ?!」
ドサッ、とした衝撃に一瞬目を瞑る。
次に開けたらヴォルフの顔が目の前にあった。
「うわ?」
「ユーリ、もう一度言おう。今日はぼくがお前を気持ちよーくさせてやるからな!」
ど、どういう意味だそれは?
でもその言葉はヴォルフが落としてきたキスによって飲み込まれてしまった。
「ん…」
ちゅ、ちゅと何度か啄ばむように唇を掠めながら、舌先で歯列を割ってくる。
誘うように口を開けると熱い舌が咥内に入ってきて胸の奥が熱くなる。
「…ん…っ」
気付けば自然と腕をヴォルフの首に回していた。
いつもよりしつこいキスの嵐もそうだけど、ヴォルフからこんな積極的なキスをしてもらっているという事の方がクる。
逃げる隙も無い舌を絡め取られては吸われて、こいつもこんな事出来るんだななんて思ってしまうくらいだ。
「…は」
銀糸を引いて離された唇に目をやると、ヴォルフのそれは蜜を垂らしたみたいに煌いていて。
これで健全な息子が反応を示さないなんておかしいだろう?
「…ヴォルフ」
「ゆ、ユーリ…」
上に乗っかっているヴォルフの手を息子に当てるように持って行かせる。
少しだけ動揺した表情が可愛い。
「な、気持ちよくしてくれるんだろ…?」
そのままぐっと引き寄せて耳元で囁いてやるとすぐに真っ赤になる。
こんな調子でおれをリード出来るのかが不安だ。
「っも、勿論だ…」
困ったように口を結ぶとゆっくりと上着を脱がしてくる。
あんなに言い切った割にはもう既に挫折しそうな顔になっている。
そんな顔されちゃうと抱きしめて襲いたくなっちゃうんだけどガマンガマン…。
「で、どうやって気持ちよくするんだ?」
上着を脱がされ、少し肌寒い上半身をヴォルフに寄せる。
ネグリジェで隔たれてはいるが所詮夜着。触れ合った肌から熱と鼓動が伝わってくる。
背中に手を回すと、ヴォルフの体がびくりと震えた。
「…ユーリがいつもやってくれる様にする…」
そんな事出来るのかな、と思いつつもそれじゃあと体を離してやる。
すると肩を押され、そのまま寝転ぶとヴォルフがおれの胸に手を触れて。
「…ん」
ちゅ、と小さく肌に吸い付いてくる。
ヴォルフの赤い唇がおれの鎖骨を吸い上げて、乳首に近付いてくる。そして舌がそっと這わされて、口に含まれた瞬間甘い痺れが走った。
「…ゆ、」
「何…?」
「…ユーリの…」
「仕方ないじゃん、ヴォルフが気持ちよくしてくれてるんだから」
いつもと違う展開におれの息子は既に準備万端になっていた。
それが脚に当たっているのかヴォルフの動きが止まって恥ずかしそうにこちらを見てくる。
いつもだったらこういう時、おれは勃ったヴォルフの息子を口の中に収めて1回イカせてやるんだけど…。
「……」
同じ事を思っていたのかヴォルフの頬が赤くなっていく。
誘うように無言でおれの息子をヴォルフの手に握らせてみる。
緊張しているのか抵抗も無く、おれのを握ったまま上目遣いでこっちを見てきた。
やべぇ、凄く可愛い!
「…ヴォルフ、おれ十分気持ちよくなったからそろそろ…」
意地悪してこのままフェラしてもらおうかとも思ったけどこんなに可愛い姿が見られたからおれとしてはもう満足なわけで。
形勢逆転していつもみたいにしようかとゆっくり起き上がると…
「いい!」
「へ?…わっ!」
肩を押され再びベッドに押し倒された。
衝撃にびっくりしているとズボンに手がかけられ。
「…おわっ」
そのまま脱がされると、早い手つきで紐パンの紐が解かれる。
ヴォルフはまだネグリジェを着たままなのにおれは素っ裸に剥かれてしまった。
そして中心で主張しているのはおれの息子さんな訳で。
「…ゆ、ユーリ…」
「え?」
「…咥えても、いいか…?」
そっと握られて軽く摺られる。思わず『お願いします!』と言いたくなるけどそこは理性で我慢した。
ヴォルフが凄く、不安そうな顔をしてるから。
「…ヴォルフ」
起き上がってヴォルフをそっと抱きしめた。
さっきみたいに怒るかと思ったら意外な事に素直に腕の中に収まってくれて。
見上げた瞳に微笑むと軽めのキスを落とす。
「ユー…リ」
「ごめん、もう我慢できないからおれがヴォルフを気持ちよくして良い?」
おれ達にはおれ達なりのペースがある訳で。
今はまだ、ヴォルフがリードしなくたっていいと思うんだ。
ヴォルフにリードされるのが嫌いなわけじゃないよって気持ちを込めて強く抱きしめると、何も言わなかったのにヴォルフの心臓は少しずつ安定した鼓動を響かせる。
「…うん」
小さく呟くとおれの胸に顔をうずめて頷く天使。
その仕草に今度はおれの鼓動が一気に急上昇してしまった。
てっきり『お前はへなちょこだからな!』等のツンデレ発言が繰り出されるかと思っていたからこの可愛さは正に予期せぬ衝撃。
「…ヴォルフ、まさかそれもマニュアル本から?」
そう思わず聞いてしまうと一瞬前までの可愛さは何処へやら、怒った天使がおれの胸を叩いた。
「そっ、そんなわけないだろう!このへなちょこがっ!!」
「ぐっ…もうヴォルフっ…ん!」
結構な衝撃に目を瞑ると、そっと感じる唇のあたたかさ。
目を開けるとそこには挑戦的に微笑むヴォルフラム。
「…ほら、ぼくを気持ちよくしてくれるんだろう?」
それはもう、天使というより子悪魔ちゃん。
だけどおれにとっては今更どっちでも同じ!って気分なんだけどね…。
…温くてすみません(汗)