なぁなぁ




「なぁなぁー」

2、3日血盟城を離れていたぼくは、久々のユーリの部屋の空気に少しばかり安堵しながらベッドに腰掛けた。ソファには兄上作と思われるあみぐるみが並べてあったから。きっと娘が並べたものだろうけど。

「何だ?」

ユーリの声がしたかと思うと突然ベッドに体重がかかる。気配が近づいてきて、今度はすぐ真後ろで声がする。

「ヴォルフー…」

「ひっ」

背にいきなり指で円をかかれ、驚きに声が出た。
背後でくすくす笑う声がする。振り向くと、ユーリが楽しそうに笑っていて。

「驚いた?」

上目遣いに可愛らしい声でそう言うから、怒ってやろうと思った心は急に萎えてしまった。

「あぁ…」

苦笑しつつ返事をすると、ユーリはにっこりと笑ってぼくの髪に指を通した。急に近づいたユーリに一瞬ぴくりと反応してしまって。
それがもの凄く恥ずかしい。

「ヴォルフ…可愛い」

ユーリがそう言うから。

「可愛いとは何だっ!」

可愛いと言われるのは不本意だが、別にすごく気にしているわけでも無い。
本当に恥ずかしいのは、そう囁く時のユーリの視線と甘い声。うっとりした瞳で見つめられれば、あっという間に動けなくなってしまう。

「だって可愛いんだもん」

そう口を尖らせるユーリの表情もやたらと色っぽくて、ぼくは顔に熱が集まるのを抑える事が出来なくなる。

「……」

髪を弄んでいたユーリの手が、スッと頬に滑るともうどうしようもない。
そんなに見つめないでくれ。心臓が痛くて仕方ない。

「…ヴォルフ」

熱を含んだ声はぼくの躰の隅まで一瞬にして響きわたる。ゾクリとした刺激に思わず目を瞑ると、ユーリの唇がそっと触れた。

そのまま、ゆっくり舌を差し込まれればあっという間に思考が溶ける。乾いた唇がどちらともの唾液で濡らされていくのがたまらない。上唇を軽く舐めあげると、ユーリが音を立てて舌を吸った。
ちゅぅ、という音と余韻に興奮しつつ目を開けると、ユーリの瞳にぼくが映って。
そっと両手が背に回された。

「…会いたかったんだぜ?」

拗ねた風に呟かれた言葉もぼくの心拍数を上げるにはもってこいで。

「…ユーリ」

「ヴォルフが居なくてさー…おれ、寂しかった」

そんな風に甘えられたら何も拒めなくなってしまう。ユーリの髪に触れると、ぎゅっと力を入れて抱きしめた。

「ぼくだって…ユーリに会いたかった」

「…ホント?」

「あぁ」

答えるとキュッと抱きしめられて、ユーリが喜んでいるのが解った。
ぼくの頬も自然に緩む。この瞬間が好きだ。

「なぁ…ヴォルフ」

「何だ?」

このまま押し倒されるのかと思っていたら、ユーリは意外な言葉を口にした。

「…もーちょっと、こうしててもイイ?」

ぬくもりをすり付けるようにユーリの髪が揺れる。抱きしめる手に力を込められて。

「…あぁ」

ふっと微笑むと、ユーリの肩に頬を寄せた。


「ぼくも、そうしてたいと思ってたんだ…」


思わず素直な気持ちを呟くと、ユーリが嬉しそうに頭を撫でてきて。驚きながらもその優しい手のぬくもりに頭を預けた。


「なぁなぁ」

「ん?」



ユーリの一言で、ぼくはいつも幸せだ。



end.