涙腺、緩い



*喪失感*






そこにあるものはもう少しそのままでいるものだと思っていた
でもいつまでとか、具体的な事は一度も考えた事が無かった
それがなくなった瞬間、そこにあったのはあたりまえの幸せのかたまりだったって事に気づいて





「ユーリ、何泣いてるんだ」
「…見るなよ」
「見られたくないなら泣くな」
「…」
「それか、1人の場所で泣け」
「…1人の場所なんてねぇよ」
「全く、お前はいつまで経ってもへなちょこだな」

「へなちょこ言うな」

「へなちょこだ、男なのに泣いたりして」
「いいんだよ、お前だってグレタがお嫁に行ったら泣くくせに」
「父親は泣いていいんだ」
「ちげぇ、親父は泣いちゃいけないんだ」
「泣くくせに」
「泣かねぇよ、おれは笑顔で泣くじゃくるグレタを抱きしめてやるんだ」
「じゃあユーリがもし泣いたら、その先ずっとへなちょこと罵り続けてやる」
「でもお前の前で泣いたらその時はへなちょこ言うのナシな」
「…」
「お前の前は泣いてもいい場所だから」
「…あー。うん、」
「…兄貴がさ」
「…うん」
「ボブに着いて違う国に行っちゃったんだ」
「…そうか」
「そしたら、家の空気とかが少し変わっちゃって、いつもはそこに居たはずの兄貴がいないってだけで」
「…うん」
「…なんか、ごめんな」
「…いい。話したいなら、聞くから」
「…寂しい?いや、喪失感っていうか…そういう気持ちになっちゃって」
「…そうか」
「もう二度と昔みたいには戻れないんだなって思えば思う程」
「…でもユーリ」
「ん?」
「ユーリも義兄上に喪失感を与えているのかもしれないぞ?」
「…」
「お前はまっすぐだからな、物事を正面からしか見ようとしない」
「…」
「もっと広い視野を持て、角度によって見えてくるものも本当に様々なんだぞ」
「…」
「人はいつだって自分を中心に考えてしまうけどな」
「…ヴォルフ、哲学者みたいだな」
「そうか?でも僕はユーリのそのまっすぐな所も好きだ」
「…」
「それに、ユーリだって僕に喪失感を沢山与えてくれてるんだぞ?」
「……ごめん、な」
「…謝られるのは、好きじゃないな」
「…」
「…謝られると、それが悪い事のようにきこえる」
「…」
「…」
「…じゃあ、こういう時、何ていえばいい?」
「……そうだな、じゃあユーリが言える範囲での、ありったけの愛の言葉を」
「…」
「…」
「……」
「……」








「………あいしてるよ、ヴォルフ」









end.