人目が気になる。





勝利さんは結構、恥ずかしがり屋だと思う。
多分本来の彼は男らしい所も多いんだろうけど、僕と付き合ってから、いわゆる恋人で言う『彼女』の立場になってしまってからは彼はとても、人目を気にするようになった。
ほら、今日も。

「ねー勝利さん、シヨ?」

「…い・や・だ!」

「何で何で!僕の事もう嫌いになっちゃった?ねえしょーおーりーさーん!」

「だぁっ!だって此処は俺の部屋だぞ!デバガメが日常茶飯事のこんな場所で何が出来るってんだ!!」

…ほんっと、恥ずかしがり屋さんだな!






*スターライトデスティニー*






「だってさー…折角のデート日和だって言うのに勝利さんが家に居たいって言うから」

「俺はデートするなんて言ってない」

「そんなストレートに誘われるなんて思わなかったから僕すっごく気合入れてきたのに」

「家に居たいのは新作ゲーム買ったから。って何でお前肩に顎乗せてんだよ」

「勝利さんがちっとも構ってくれないからじゃないですかー」

「お前はゆーちゃんと遊んでろ」

「渋谷は今日は補習で学校ですー。それより僕と渋谷が仲良いのが不満じゃなかったの?」

「!!」

ベッドに座ってTVに視線を向けたままの勝利さんに後ろから抱きつくと、肩に乗せていた顎の位置をずらしてわざと頬にキスを落とす。
するとびくりと体が強張って、勝利さんがやっとこっちを向いた。

「やっとこっち見た」

「おっまえなぁ…!」

頬を押さえて睨んでくる勝利さんが愛しくて、益々僕の頬は緩む。
何時見ても勝利さんの怒った顔は可愛い。

「もう渋谷と仲良くしてても嫉妬してくれないの?」

「誰にだよ」

「渋谷に」

「逆だろう!」

「わっ!酷い僕今傷ついたよ!」

口元を手で押さえて悲しそうに目を瞬かせると呆れた顔を向けられて。
またTVに視線を戻そうとしたからコントローラーを足で蹴り落とした。

「おい!」

声を荒げる勝利さんに気にしないでぎゅーっと抱きつく。
勢いが激し過ぎて押し倒す形になったけれどそこは想定内。

「勝利さんがやっと僕の相手してくれた」

「…いや、明らかにわざとだろ」

「勝利さん、すっごく薄いのと苺の香りがするの、どっちがいい?」

「は?」

「決めらんなくてどっちも買ってきちゃったんだけど…やっぱり薄い方かな?」

「だから何の話だ?」

「やだなぁ勝利さん、コンド…」

「うわー!みなまで言うな!ってか何買ってきてるんだよ!アホ!」

顔を真っ赤にして僕の下で怒鳴る勝利さんに知らぬ振りで笑いかける。
だって久々に2人っきりで会えたのに何もないのは辛いじゃないか!

「…勝利さんは僕とシたくないんですか?」

「…そういう問題じゃないだろ」

「徳用買ってきたのに?」

「…だーかーら」

「ゴムだって使用期限があるんだよ?」

「そんなん何年も後だろっ!…ったくお前はさぁ、俺と何がしたいの?」

「え?」

唇を尖らせて勝利さんを見ると、見上げてくる瞳はやっぱり黒い。
何がしたいって…。

「…俺は、お前が…俺の身体しか見てない様に、見える」

「ええっ?!」

勝利さんの衝撃告白に思わずこっちが戸惑ってしまう。
どうしてそうなるんだよ!

「そんな事あるわけないじゃないですかっ!」

「…本当か?」

「当たり前っ!…どーしてそんな思考になったんですか!」

驚きながらも問い詰めると、勝利さんが決まり悪そうに目を逸らす。
その仕草さえ可愛いとか思っちゃってるのにどうして身体目当てだなんて思うんだろう?

「…お前が、いっつもシようって言うから」

「それは僕が勝利さんの事を大好きだから」

「俺はっ」

少しだけこちらに視線を向けて呟く勝利さんは、少し不安そうで抱きしめたくなる。

「…何ですか?」

「…俺は、もっと、くっついたりとか…それくらいで良いのに」

「…それ以上は、嫌?」

「嫌じゃないけど…恥ずかしいんだよっ」

「…人目につかない場所でやってるじゃないですか」

「だからっ」

ふいに首に腕を回されて引き寄せられた。
突然の出来事にされるがまま抱きしめられると、鼓動が跳ねる音が聞こえた。

「…だからっ、お前に見られるのが恥ずかしいんだよこの…バカ!」

そして照れくさそうな声に心は一瞬に跳ね上がる。
ついさっきまでのちょっぴり悲しい気持ちはどこへ行ったのか、今度は胸が高鳴る。
可愛い。
勝利さんが可愛い。
可愛すぎて仕方が無い。

「…勝利さん」

「何だよ」

「僕は勝利さんの全部が大好きです」

「…そう」

「もうすっごくすっごく大好きなんです」

「わかったよ!」

「だから、エッチしたいとも思うし沢山ベタベタしたいって思う」

「…」

「でも、勝利さんがそう言うなら…少しは控える事にする」

「…んっ」

そっと抱きしめていた体を離すと、至近距離で相手の顔を覗く。
眼鏡を外すと、そのまま小さく口付けた。

「…その代わり、2人っきりの時はもう少し僕の事を見て?」

小さく願いの様に呟くと、少しの間を置いて勝利さんが頷いた。
それに嬉しくなって微笑むと、勝利さんの頬に赤みが差して。

あぁ、そんな勝利さんを今直ぐ食べてしまいたいってのが本音の筈なんだけど。

「…今日はキスで我慢するから」

「…うん」

まだまだ時間はたっぷりあるんだから、ゆっくりと進んでいくのも悪くないかな、なんて。
だって恥ずかしがり屋な勝利さんも大好きだから。

「でも次回は薄いの使おうね?」

「…っ!」








結局僕は、相当勝利さんに甘いって事だ。








end.