欲しいのは、自信






*Key word*




ぎゅっと抱いて、少し離して、もう一回抱きしめて。
温まる頬の熱を分け合うように摺り寄せて、耳元で甘く囁く。

「もっと愛して」

もっともっと。そう強請ると耳まで真っ赤に染めてきみは僕を見る。
その様子は物凄く可愛くて、でも絶対に言えないNGワード。
可愛いなんて言ったら、母親譲りの童顔がコンプレックスの彼は怒ってしまうから。
そして傷ついてしまうから。

「ねぇ渋谷、もっと欲しいんだ」

こんな恥ずかしさ満載のセリフ、自分が言うようになるとは思いもしなかった。
でも鈍感で優しい彼にはハッキリ言わないと伝わらない。
最初の頃は大変だった。
一緒の部屋に居てもキスもしてこない渋谷に何度も、嫌われたのかと頭を悩ませて。
それが奥手のせいだと気付いたのは何時だったっけ。
体を繋げるようになってからも、少しでも苦しそうにすればすぐに心配してくれるし、僕の体を気遣ってか一回達すると直ぐに後処理を始めていた。
その頃は僕も慣れていなかったし、月に一度位のペースでしか触れることが無かったから自分の事しか考えられなくて。
それがもどかしく感じられるようになった時、渋谷が熱を持て余していたのを知った。
あの時は嬉しくて、でも悲しい気持ちの方が強くて泣いた。
渋谷がシャワーを浴びに行った隙にベッドに染みが出来るくらい泣いた。


そんな腫れ物に触るように僕を大切にしないで。


言いたかったその言葉は、言えないまま涙と一緒に零れた。
愛されてることが切なくて、自分が情けなかったんだ。



「…そんな事言うな」

ぶっきらぼうな口調も照れからくるもの。
渋谷が不器用な性格で本当に良かったと思う。
もしもっとスマートな物言いが出来たとしたら今頃他の子に獲られていただろう。

「…僕ってわがまま?」

小指からゆっくりと首筋に指を添えると、熟れた唇をじっと見つめる。
そうすると視線に耐えかねた様にキスが降って来るのを知ってるんだ。
小さなキスを貰って、嬉しくなってしまう僕に渋谷は微笑む。
僕が嬉しいと嬉しいって微笑うんだ。
そんな事言わないけど解る、そしてそれが最高に幸せ。

「渋谷、ちょうだい?」


もっと欲しいんだ。
そう言った時、ごめんと言われた。
臆病でごめんって。
だからその時終わりにしようと言ったんだ。
歩み寄る関係はもう止めて、これからは一緒に歩いていこうって。
それからの僕らは、一回りもふた回りも良くなる筈だって。

「…おれも、欲しい」

もっと素直に気持ちを伝えて。
少しずつでいいから、怖がらないで。
僕はきみを嫌いになったりなんか絶対にしないから。
そう告げたら、根拠が欲しいって言われた。
そこでやっと気付いたんだ。
あぁ、そう言えばとても寂しがりやだったりもしたんだと。

「うん…愛してるよ、渋谷」

その言葉を言った日から、僕達の距離はもっともっと近くなったんだ。



end.