泣き寝入り





足先痺れて僕は死にそう

爪先掠れて声は枯れそう


君は只 只 微笑うだけ





*イノセント*






弱味に付け込まれる様に、その瞳にほだされた。

「1度だけ」

そう言って、腕を捕まれた部屋の中。

「やめっ……」

ゆっくりと追いつめられた壁に背を預けて、目を伏せる。
反射的に解こうとして振った腕は、傷つけてしまうかと思った。
でももう、止まらなくて。

「っ!?」

あぁ、頬を叩いてしまうかもしれない、そう思ったのは一瞬。
腕は捕まれた状態のままその位置にあった。

「何か?」

そう笑いながら、何事も無かったかの様に腕を捕み続ける様は…少し、怖くて。
目を合わせるとふわりと、でも少し悲しげに微笑まれた。

「1度だけでいいから」

その微笑みが何を指しているかは解らない。だけどこれ以上居たら…何かが狂ってしまいそうで。

「離せ」

目を合わせるのが怖くて、視線を逸らした。

「どうして」

目を逸らすんだ。そう、後に続く気がして唇を噛んだ。
ほだされたくなんか無いのに。

「どうしてもっ…」

揺れる心がたまらなく憎らしい。
そう、全て解っているんだ。

「駄目?」



本当は、逃げられない事。



「…駄目だ」

こう言った所で、何も変わる事なんて無いことも知っているのに。
わざと焦らすのが好きなのかと言われても仕方ない。

「……それは無理」

結局いつも、強引に事は進められてしまうのだから。
腕を掴んだ手にギュッと力が籠もる。

「いッ…」

「やっと見つけたんだから」

どうして流されてしまうんだ。どんなに逃げてもいつだって捕らえられてしまう。
もう、嫌だ。
そういつも思うのに、その腕はこの手を掴んで離しはしない。


まるで、柔らかな手錠。


「や…だっ」

「まだそんな事を」

最後の力を振り絞って身を捩った。壁が行く手を阻もうとも、それは気持ちの問題だ。
だが、手錠はキツく腕に締まる。

「いたっ…」

「抵抗されるのは」

好きじゃない、そう解ってる。それならこの行動は火に油。

「素直に従うなんてっ…」

でも、そんなの悔しいじゃないか。
刃向かわないなんて女と一緒だ。
…そうした所でどうなるわけでもないが。

「男がすたる、って?」

楽しそうに微笑む姿に一瞬、気持ちが揺らぐ。

「…ッ」

あぁ…、もう駄目らしい。
そう、ほんの少しだけ、諦めてしまった。


隙を見せたら、最後。









「やっと大人しくなりましたね」

「……はぁ」

微笑む姿に気を抜いた瞬間、凄い力で両手を拘束された。抵抗は無理だ、そう判断する。

「さぁグウェン!行きますよ!」

女に捕らえられるなんて男がすたる。なんて言ったら多分、地獄行きだろうが。
…可愛らしいものには、弱いんだ。



「…解ったから…手錠を解け」

「手錠?」





「いや、もう…手遅れか」





きっともう、ほだされてしまいすぎた。

「?」

「はぁ…」












そうしてため息を吐く事何万回。


未だに手錠は外れない。



end.