弱虫じゃない!
言っておくけどね
僕は弱虫なんかじゃないよ?
ただ…
ちょこーっとだけ
ちょこっとだけね?
臆病なだけなんだ
うん。
*ドリーマー*
桃色枕で見たいのはどーしたって渋谷の夢で。
「…よし」
ベッドに潜り込むと目を瞑って夢に沈む。
さぁ、今日こそは渋谷を…。……。…………。
「ね、眠れない…」
どうした事か目が冴える。理由は薄々わかってる。枕がいつもと違うのと、心拍数が高くなっているから。
「うぅ…」
夢を見てないのに頭をくるくる回るのは渋谷の学ランの下の綺麗な肌…の想像で。
なんてこった。眠るのにこんなに緊張するなんて。
「やっぱ枕は明日にしようかな…」
こんなにドキドキしちゃ眠れっこなさそうだし。
…そう言い訳するのも何度目かわかんないけど。
「よいしょっ…と」
桃色枕を脇にどけ、いつもの枕に頭を沈める。すると何故だろう、眠くなってくるんだ。
「どーいう事だよ…」
薄れ行く意識の中で渋谷の笑顔を思い出す。あぁ、渋谷に触れたいなぁ…。
『村田?』
『渋谷…』
あぁ、これは夢か?だって渋谷がこんなに近くにいるし…って、渋谷?
『これどう?作ってもらったんだ』
ネ、ネグリジェ姿…!?
『それ…』
『似合う?』
似合うっていうか…それはかなりヤバいって!
黒のスケスケはどっからどう見ても…マズい。
慌てて頭を縦に振ると渋谷はにっこり笑う。
『嬉しい』
…ッ!その笑顔は反則じゃないの?ってか…襲っちゃってイイの!?
『ん?村田?』
悩んでると上目遣いで渋谷が見つめてきて。…あぁ、これはもう、限界ッ。
『渋谷っ…』
勢いにまかせてガッと肩を掴む。柔い肌に触れようとした瞬間、戦慄が走った。
『何すんだよ?』
冷たい、まるで軽蔑するような冷たい瞳で睨まれて動きが止まる。触るなよ、という風に身を捩られ掴んでいた手は綺麗に払われた。
『おれ、今からアイツに抱いてもらうんだよ』
『え?』
『じゃあな!』
黒のスケスケをなびかせながら渋谷は僕の元から離れた。その背中を呆然と見つめながら泣きそうになる。
あ、アイツって…誰だー!?
『あっ!』
扉の付近で渋谷が嬉しそうな声を上げる。ここから見えないけれど、誰かが話している声もして。
様子を伺おうと立ち上がった瞬間、渋谷が恥ずかしそうに呟いた。
『なぁ…キスして?』
僕の体はその瞬間固まって。
次の瞬間、渋谷が扉の向こうに消えた。そして−
『んっ…ぅ』
耳に聞こえるのは渋谷のキス中の甘い吐息。軽い水音に絡まるような音に思わず叫んでいた。
『やめろーーッ!!』
渋谷に触るなーッ!!
「うわぁぁぁッ!!」
ガバッと跳ね起きると辺りはいつもと変わらないままで。
寝汗をかいたのかパジャマの背中が濡れている。
「ゆ…夢か」
夢の中でさえ触れないなんて。アイツの顔だってわかんないままだったし…。
「はぁ…」
桃色枕は昨晩置いた場所にちゃんとある。と、するとこれはただの悪夢という事か…。
「…嫌な夢」
渋谷が誰かのモノになるなんて。…そりゃ、いつかは誰かとつき合うと思うけど。
ベッドを降りてパジャマを脱ぎながらため息を吐く。
このままじゃ本当に正夢になっちゃう…けど、想いを伝えられる程勇気も無い。
「夢であれだもんなぁ」
少し落ち込みながら廊下に出ると、丁度廊下に出ていた渋谷と目が合う。
「あー村田、おはよっ」
「渋谷…」
さっきの夢を思い出してなかなか目が合わせられない。すると渋谷は首を傾げて僕を見る。
「どうかした?」
そう心配そうに聞かれると益々罪悪感。
ごめん渋谷、僕は毎夜渋谷で色々と妄想遊びをしています。
「何でもないよ?」
「そうか?ならいいけど」
ポーカーフェイスで答えると渋谷はにっこり笑って。その表情が胸の中で回る。
あぁ…やっぱり僕は渋谷が好きだ。大好きなんだ。渋谷に最初に触れる相手が僕じゃなくてどーするんだよ。
「…おっし」
「何?村田気合い入れちゃって」
「え、いや、何でも?」
夢でさえ抱けないなら現実にだって抱けないし、そこまで臆病にもなりたくない。
だから今夜こそ、桃色枕で渋谷を押し倒してやる。
まずはそれからだ。
end.