黙って俺がついて行く
リードするのが当たり前だった。
だってオレは男で、たまに綺麗なオネーサンで、でも本質は男で。
普通、男が恋人をリードするもんだろう?
*リード*
「ヨザックー?何ぼさっとしてんのさ」
しかもこんな可愛い恋人なら、特に。
「すいません、見とれちゃって」
「んな事言ったって何も出ないよー」
「猊下が居ればいいですー」
笑って返すと呆れた様な声が聞こえる。
「ヨザック?さっさとついてこないと幾ら温厚な僕だって毛細血管が2本程切れるよ?」
…モウサイケッカンが何なのかは解らないが、どうやら恋人はご立腹で。
オレはその背を慌てて追いかけようとして、足を止めた。
−もし、オレがいなくなったら猊下はどうするだろうか。
全く幼稚で低レベルな考えだったが、オレは何を思ったか実行してみた。
人混みに紛れて物陰に隠れる。大丈夫、尾行は得意だ。
「ヨザック?」
早速猊下が振り向いた。キョロキョロと辺りを見回して…歩き出した。
「ええっ、猊下!」
オレを探してくれないんですかっ!?
思わず飛び出しそうになった瞬間、足を止めた。
猊下がまた振り向いたから。
そして……
「ヨーザックーのー『ピー』はー、『ピーーーーーー』!!!」
「わーーーッッ!!!猊下ーッ!!!!」
猊下の白昼堂々のドッキリ発言によりオレは多量の汗をかきながら物陰を飛び出した。
息を吸い込んでまた何か叫ぼうとする猊下にダッシュで駆け寄る。
「あれ?ヨザックー」
「げ、猊下何大声であんなコト」
「探しちゃったじゃーん。さ、行こうか」
オレの話は無視ですか!?
「ちょ、猊下」
「何?」
にっこりと笑う猊下に言葉が詰まる。この笑みは…怖い。
「い、イエ…」
「そう?」
そう笑って、何事も無いようにまた歩き出した猊下が前を見ながら言った。
「またくっっだらない事考えて僕の予定を乱す様な事したら、今度は本気で怒るからね?」
……本気じゃなかったんスか!?つーかバレてる!
「は、はい…」
アワアワと焦りながらもそう答えると。
小さく呟く声が聞こえた。
「…黙って消えるなんて許さないからね」
それは少し鼻にかかった声で。思わず猊下の顔をのぞき込もうと前に出ると。
「見るな」
一喝されて、更に前に出られた。
「猊下…」
「黙って僕についてこい!」
…そんな可愛い鼻声で言われたら、もう。
「…了解しました」
リードされるのも悪くないかな、なんて。
オレは猊下の華奢な背中を見つめながら、そんな幸せな事を思った。
end.