きらきら






きらきらしたものが好きだった。
それは見ていて美しいし、心を豊かにさせる。
昔々の自分が好いていた人物も、とても、とてもきらきらしていた。

「見つけた」

優しい風が、吹いた。
君の髪をなびかせて。

「…」

「いや…見つかった、かな」

苦笑しながら佇んで、冷たい壁に身を寄せた。
近付いたら壊れてしまう気がしたんだ。
だから近寄れない。

「…どうして、そこに立っている」

しっかりと意思を持ってこちらを見るその瞳は、真っ直ぐで、折れることを知らない。
きみの好きだった野球少年は僕と勝手が違っただろう?

「きらきらしてるから」

壊れ物には触らない。
不注意で壊したくないから。
指紋で汚したくないから。
遠くから眺めるものだと、ずっと思っていた。

「…お前の目は随分悪いみたいだな」

皮肉を込めているのか自分を卑下しているのか。

「ごめんね、僕は渋谷みたいには君を愛せないんだ」

それを如何取るかなんて、解っているのに曖昧な言葉しか言えない。
回りくどいのはきっと、性格の所為じゃない。

「そんな事、最初から解ってる」

距離を詰められる事で胸を満たすなんて。
僕はいつから我侭になったんだろうね。
こうして欲しいって事は、いつだって素直に言えない。
きみの前だからじゃなくて、きみの前でも。
それはきっと、傷つけることになるのだろうけど。

「…僕の事、好きかい?」

「好きと言ったらお前は笑うのか?」

ほら、こうしてきみの方が悲しい顔をするんだ。
なんでだろう、それは渋谷の優しさに近くって。
泣きたくなる。

「僕は…きみを愛してるよ」

サラリと、言葉が舌を滑る。
大した温度も連れずに。

「じゃあ、何故近付かないんだ」

そんなに悲しそうにしないで。
心の表面はいつもきみを心配しているんだ。
愛してるなんて簡単な言葉、幾らでも言える位に。

「近付いて欲しいの?」

でも内面はもっとどす黒くて。
きみを追い詰めないと側に居ることさえ出来ない。
理由がないと、綺麗なものには触れられない。

「…」

ふるふると肩を震わせたきみは、それでも頷いた。
こんなにギリギリのラインで試す男を、それでも好きだなんて。

「ごめんね」

柔らかくて甘い匂いがしそうな髪に触れると、きみは瞳を伏せて首を振った。
こんな風に触れることを、それを許されることを彼はずっと待っていたのに。
それが叶う日が無かったのを、僕は今でも不憫に思うよ。

「大賢者…」

ふいに呟かれた声と突然縮まった距離に目を見開く。
肩に触れる温かな感触に驚いた。
…今呼ばれたのは、どっちだ?

「…フォンビーレフェルト卿?」

「ぼくは…亡くし物なんかじゃない」

目を綴じたのが解った。
頬に滲んだ温度に、胸が軋んだ。

「…」

「ぼくはヴォルフラムだ…」

じゃあ…僕は…

「…僕は?」

「…健」

「……」

知られていた、受け止められた。
気付いたら触れていた。こんなにも自然に。
怖かったから、なんて今更理由にならないかもしれない。

「…ごめん」

どうにか謝ろうと呟いたそれは、鼻にかかって涙声になり。
本能はきっと心の奥深くにあって、気付かない内に涙腺を緩ませるんだと気付いた。
だって心の表面が熱くなる前に涙が流れてきたのだから。

「愛してるのは…お前だ」

肩に額をつけて、確かめるようにきみは言った。
それはやっぱりきらきらしていて、でももう怖くない気がしたんだ。

「…きみは無くし物なんかじゃないよ…」

そう呟くと、ゆっくりと顔を上げて僕の目を見つめて。
かくれんぼをしていた訳じゃないのに、きみは少しだけ安堵の表情を見せた。




end.