太陽を呼ぶ






「…ユーリ」

何故だろう、目も開けてないのに、声も聞いてないのに。
そこにいる感触を感じて…それだけで、誰だか解ってしまった。

「…!」

息を飲むのが解った。それと同時に、顔中に雨が落ちてくる。
生暖かい雨。
目を開くと、ぼやけた視界の中で目を真っ赤にして顔を崩す主君の姿が見えた。
とてもとても、いとおしい人。

「なに…泣いてるんだ」

体中酷く痛むが、一番痛いのは胸の奥だった。
じわじわと滲んだかと思えばぎゅうっと締め付けられ。
ユーリがそこにいると言うだけで、潰れてしまいそうに痛い。
息が止まるくらいに。

「だって…だってヴォルフっ…」

「…笑えと、言っただろう」

笑顔を見せてくれ。
ぼくが好きなのはそんな泣き顔じゃない。
ぼくが最後に見たいのも、泣き顔じゃない。
これ以上雨を降らせないで、太陽を見せて。

「…」

拳でぐっと目を擦ったユーリは、無理矢理口角を上げようとする。
その仕草が哀しくて、それでいて綺麗だった。

「随分成長したんだな…、気付かないうちに」

ぼくが側に居ないうちに。
何があったのかはもう、聞くことも出来なくとも。

「…何だよ、そんなわけ、無いだろ?」

そう眉を下げる相手に微笑むと、唇から自然に言葉が零れていた。

「好きだ…ユーリ」

呟いて目を見ると、ぼくを見下ろす双黒の瞳がゆっくりと細まり、優しく揺らいだ。


その瞬間、ぼくを縛っていた全ての鎖が解けた様な気がして。


「ヴォルフ…」

ぼくはやっと、戻ってこれた。貴方の居る世界に。

「…おれも、好きだよ?…お前の事、一番…」

髪を撫でる手の感触に、苦しくて涙が溢れた。
聞き取れた単語に、愛しさが止まらなかった。

「ユーリ、ユーリ…」

誓ったのに。
魔王陛下の為に、命を棄てるのも厭わないと誓ったのに。
眞王様。
この人の側に居たいです。

「お願いだから…おれの側に居てくれよ…」

魔王陛下の為に、生きて居たい…。

「…泣くな、へなちょこ…」








そう思うのは、いけない事ですか…?









end.