雨が映す






どうしてこんな近くにさえいれないものなのか。




雨が降ってきた。さっきまで晴れていたからきっと、只の通り雨だろうと思っていたらそれは本降りに変わり。
ヴォルフラムはチッと舌打ちをすると、魔王の部屋の窓から中庭を見つめた。
城下に遊びに行くと出かけた魔王は未だ、帰ってきていない。
こんなことなら自分が一緒に行けばよかったと思う。雨宿りできる場所を幾つか知っていたのに。
でも行けなかった。魔王には大賢者が一緒だから。

「…このへなちょこ」

彼と久々に2人で出かけたいなんて言われたら、浮気者と止める口さえ噤んでしまう。
相手は自分より高貴なお方で、逆らうことなど出来ないのだから。
尾行役を代わっても良いとグリエに言われたが、それこそ嫉妬心に苛まれるだけだ。
近くに居る者すべてを排除してしまいたい。
時々そんな衝動に駆られては、無防備な彼の笑顔に歯止めを掛けられる。信用の証のそれは何よりもの宝物だから。
手を出せないのは、好き過ぎるからなのだ。


「−あ」

小さく声をあげると雨の中、寄り添って走ってくる2つの人影が見えた。
この窓からは彼らは遠すぎて、ヴォルフラムは短くため息を吐く。
どうして隣にいるのは自分じゃないのだろうか。
湧き出た想いをかき消すように、2人の姿は視界から消えた。

「まずは、風呂か…」

行くべき場所を知っているのにヴォルフラムはベッドに腰を降ろした。
静かに降る雨が時折窓を撫でるように音を立てる。
それは見て見ぬ振りをしていた自分の心の中に似ていて、悲しみはただ胸を濡らすだけだった。



end.