夜はお静かに




「むらた」
答えは無い夜の遊び。
何度も何度も、呟いては闇に飲み込ませる言葉たち。
「すきだよ」
放った途端、綺麗な色に変わる事も出来ずにそれは溶けた。
天井は高すぎていつもの様に模様を数える事も出来ない。
何かを映し出す事も出来ない。

「…すき、だ、よ」
確かめるように何度か呟く。
誰に確かめるでもないのは解ってる。
でもこれが恋しい気持ちだって言うなら誰にだって止める権利は無いだろ?
胸が痛い。
あったかい温度に包まれたい。
もう触れる事は無いであろう温かさはどんなのだったろう?

「このまま、こうしてたい」
そう言ってくれたね。
渋谷がくれた言葉を繰り返して、上掛けを肩まで引っ張る。


むらた
すきだよ
おれはおまえがすきだよ
このままこうしてたい…
なんておれ、なにかんがえてんだろな


渋谷が僕にくれた言葉を呟いて、あの時の僕に戻った気になってるなんて全く。
バカとしか言いようが無いんだけどね。
でもいいんだ、バカだから。
大切なものさえ傷つけてしまう愚か者なんだから。
はにかんだ笑顔が恋しい。
頬に触れた唇が愛しい。
背に回された腕が、優しく触れる指が、深く射抜く瞳が、全部、ぜんぶがもう、あふれる。
「あっ」
どうしよう、どうしよう。
泣きたくて仕方ない。
悔しくてぎゅっと目をこすったら右手の手の甲はびしょ濡れになっていた。



end.