キスは玄関先で





−暑い。
まだミーンミンミンは聞こえないけど、暑い!

「ぐわっ…」

店の外に出るとそこは何かを連想させる様な照り返し地獄。何故だがコンクリが白く見える気がする。

「暑い…」

思わず呟いた。引き返したくなるけど、左手に持った袋は既に時限装置を作動させている。

「よぉーっし!」

崩れるといけないからカゴには荷物は入れない。不安定な体勢で自転車に跨ると炎天下の中ペダルを漕ぎだした。

向かいながら、最初から来てもらえばよかったと思ったけどもう遅い。










ピンポーン

「はーい…って村田、汗だくだぞ?」

「やぁ…渋谷。猛スピードで、自転車、漕いできた、から」

猛暑の中ペダル踏み踏みぶっ飛ばしてやっとついた目的地。その家の中から出てきたのは青のタンクトップと半ズボンに身を包んだ涼しげな渋谷。
玄関は外の気温とは対照的にひんやりとしていて、その温度差に喉が驚いた。

「息切れてるって」

「は、は…」

「ホラ、汗拭けよ」

「え?」

口元を緩ませる渋谷に笑い返そうとすると、タオルを頭にかけられる。
触れてみるととても冷たくて。

「うわー…冷たーい」

「冷蔵庫で冷やしておいたんだ」

前にお袋にやってもらって気持ちよかったからさー、と笑う渋谷に頬が緩む。

「ありがとう。僕ちょっと天国気分」

「だろ?」

タオルで汗を拭きつつ、左手に持ったままの荷物を持ち上げる。
おっと、早くしないと。

「そうそう!渋谷、これ」

「え?」

タオルを首にかけると持ってきた袋を開ける。

「ちょっと待ってて、今作るから」

玄関先にしゃがみ込んで袋を取り外すと、渋谷も不思議そうな顔でしゃがみ込む。

「作るって何を……あ」

袋の中身を見ると途端に嬉しそうな声がして。
見えないけどきっと笑ってる。

「渋谷好きだろ?」

手早く作業をしてさっ、と立ち上がる。
よかった、間に合ったみたいだ。

「…おー」

「ハピバースデイ渋谷」

目の前に差し出せば驚いた様な渋谷の顔。
次の瞬間、笑顔に変わる。

「よく溶けなかったな」

「そりゃ、走ったからね」

渋谷の好きそうな味でまとめた三段重ねのアイス。コーンに乗せたソレは炎天下にさらされた割にあまり溶けてなくて。
流石ドライアイス。と僕。

「おれトリプルなんて初めて見たよ」

「僕も。結構食べ応えありそうだよね」

嬉しそうな渋谷がアイスを受け取る。玄関先にも関わらず腰を落とすと、にっこりと笑った。

「ありがとう」

「どういたしまして」

渋谷の横に腰をおろすとタオルで残りの汗を拭く。
よく考えたら変な場所にいるよな。

「村田の分は?」

「僕はいいよ。渋谷に食べて欲しかっただけだから」

「じゃあ半分コしようぜ?」

「少しだけでいいよ。それより早く食べないと溶けちゃうよ?」

クスリと笑って促すと、じゃあ、と嬉しそうに一番上のアイスに口をつけた。
口に含むと、美味しくて仕方ないって表情になる。

「美味い!」

「よかった」

その顔を見れただけでも走ってきた甲斐があったってもんだよ。
思わず頬を緩ませると、渋谷にアイスを向けられる。

「村田も」

「じゃあお言葉に甘えて」

差し出されたアイスを少しかじると、そこから広がる甘い味。あ、ナッツ入りだ。

「これ美味いね」

「うん、何て味?」

「んー…、最近のアイスって名前長くって覚えてないんだよね」

「わかる。おれも聞いても覚えられなかったと思う」

「やっぱり」

顔を見合わせてククッと笑い合う。
まぁ美味しければいいんだよね。細かい事は気にしない。
それより渋谷がアイスを食べる姿を覚えておいた方がよっぽどいいよ。

「んー、美味い」

着実に食べ進めていくその表情は凄く幸せそう。
全く単純と言うか、解りやすくて愛しいと言うか。

「うわっ!垂れてきた」

溶け出したアイスが指に流れて慌てる渋谷が面白くてやっぱり愛しいと言うか。
僕って相当キちゃってるなぁ。

「村田、悪いけどリビングからティッシュ取ってきてくれない?」

「ん?そんなのより…」

「わ、む、むらたっ」

渋谷の指から落ちそうになった雫をぺろ、と舐め上げる。
瞬間、渋谷の動きが止まった。

「甘いね」

「ちょ、そんな事しなくていいから…っ」

もう一度舐めると、今度はゆっくりと指を吸い上げる。味わうように、はたまた誘うように。

「っ……」

上目を上げると渋谷の頬が真っ赤に染まってる。恥ずかしそうに目を合わすけど何も言ってこない。
見せつける様にちゅ、と吸い上げて唇を離す。

「むらた……」

「食べないとどんどん溶けちゃうけど。…もしかして舐めて欲しいとか?」

「そっ、そんなワケ無いだろ?!」

笑うと焦って否定するけど、耳まで真っ赤になっちゃってるよ。そんな所も可愛いんだけどね。
仕方ないなぁ、とわざとらしく言うと溶け出した箇所をかじってあげる。

「ほら、渋谷」

お前も食べろよ、と促す。渋谷は肩で息を吐いて、またアイスを食べだした。
頭は多分沸騰状態だろうけど。

「村田って…何するか予測つかない」

「…それって良い意味?」

アイスをかじりながらぼそりと呟いた渋谷に、にっこり笑う。するとじっと目が合う。
あれ、何だか近いぞ。

「……いー意味」

あれ、これは…。

「……っ」

柔らかい唇から伝わるのは甘いアイスの味。舌先から流れ込んでくる温まった液体が喉を流れれば、当然…。

「…んぅ…っ」

体はアツくなる…よね。

「……甘い」

「うん」

唇を離すと、お互い目を合わせて恥ずかしがる。
何だか、バカみたいに愛しい。

「何か暑くなっちゃったよ」

「…おれも」

涼しい筈なのにね。何だか恥ずかしいんだ。
それは渋谷も同じみたいで、目を合わせるとまた笑い合う。

「…アイス美味いね」

「…食べる?」

渋谷の手にあるアイスはまだもう少しもちそうだし。
その挑発的な微笑みも嬉しいね。

「一緒になら」

「一緒に、な」

お返しに微笑み返すと渋谷のご満悦な表情。
やっぱり買ってきて良かったな。

「じゃあ今度は僕から」

冷たいアイスをかじると渋谷の顔を覗き込むように唇を寄せる。





そうやってアイスが無くなるまで、僕達はキスを交わした。


外の暑さに負けないくらい熱さと甘さで。




end.





管理人の愛友こまっちに捧げる誕プレ+無理矢理ゆーちゃんBD話でした。