プレゼント





 さて、と村田が腰を上げたので、おれも一緒になって立ち上がる。
 さっきから頬が緩みっぱなしな村田が抱きついてくるのは目に見えていたし、実際くるりとおれの方を向くと腕を伸ばしてきた。
「渋谷」
「…ん」
 目が合うとそれは尚更愛しそうに細まるもんだから、おれはもう完全に腹をくくって背に手を回す。『ちゃんと全部見たいし邪魔なものはいらないし』とか言って使い捨てのコンタクトをはめている村田の顔には、トレードマークのメガネは無い。誰だ、眼鏡は顔の一部ですとか言ってた奴は。
「ね」 
 なんていうか、自分で言うのも恥ずかしい話だけど。おれは村田の事が滅茶苦茶好きだったりする。だからこういう風にべったべたに甘えてくる村田を、表面上嫌がりながらも受け入れていたりする。二人っきりにならないと、やってやる気にはならないけど。
「んっ」
 唇を最初から食む形で、村田はおれを押し倒す。ベッドはぼすんと音を立てておれ達を受け止めるし、枕はジャストフィットで頭を包んでくれる。もう村田はおれの髪に指を差し入れて、地肌をなぞる熱がもどかしい。おれも村田の首を引き寄せて、あられもなく舌を絡ませる。
「んうっ、は…」
 ああもう、なんだってこういう時、口から漏れる声は酷く色っぽくなるんだ。涎もひたすら垂れるし、それが耳を伝うと酷くむずがゆい。
「有利」
 村田の唇が離れると、途端におれの名前を呼んだ。それがなんだかすごくもどかしくて、下半身がきゅうっと疼く。口の形だけで『もっと』と返すと、村田の返事を待たずに喰らいついた。
「っ…」
 もうどうしようもないくらいに近づいているのに、もっともっとって声がする。それはおれからか村田からかは解んないけど。もどかしそうに下半身をまさぐられて、目から涙が滲んだ。
「あっ…やぁ」
 思わず腰を引くと、唇を離した喉に噛みつかれて声が掠れた。いつもだったらこんな風に、例えばちょっと力を入れたら傷ついてしまうような行為はしてこないのに。ゾクゾクした感覚が背筋を這いあがって、叫びそうになる。
「んっあ!」
 早急に指をねじこまれて、思わず声を上げた。村田がローションの蓋を勢い余って割ったのも気にならないくらいに、おれの体もペースが上がっていく。どうか今すぐブチ込んで欲しい。痛いのも傷つくのもすごく怖いけど、その先にあるものだって見てみたい。
 むらたぁ、と声をかければ、酷く真顔なのに、息を切らした村田と視線が合う。
「そんな泣きそうな顔して、何が欲しいの?」
「むらたのがほしい」
 恥ずかしいとかそういうのはどこかに行って、おれは村田だけを求めていた。だって村田はおれが欲しいものはいつだってくれる。だからおれも村田が喜ぶ事をしたい。なんだってやってやりたい。だって好きなんだ、当然だろ?
「しぶや、もう一回言って、さっきの」
 はぁはぁと息を吐きながら村田が耳を寄せるので、おれは半ば熱に浮かされながら、口を開く。
「はぁ、あ、あいしてる、おれのことめちゃくちゃに抱いて」
 一か月前に村田が、『僕の誕生日までひと月禁欲して?』と言ってから、ずっと触れることの許されなかった部分に漸く手がかかる。
「ああ…!」
 それは思った以上の快感をおれに与えてくれる。こんな自分がいたのかって思わされる位に。村田の事を好きだっていう感情だけを全面に押し出して、こんなに喘いでよがっているおれがいる。恥ずかしくて、逃げたくて仕方ないのにやっぱり触れてほしいなんて。
「やだ、むらた…何で」
 何でこんなおれを、それでも好きだとか言って抱いてくれるのか。その答えを示されたらきっと、おれは幸せで堪らなくなるんだろう。
 
全部今日だけ。おれからのめいっぱいのプレゼント。村田の一番欲しいもの。
「ああもう、全部食べちゃいたいんだよ。有利」
 それがおれ。

「はやく、はやく食べて、村田」
 首に結んだリボンをほどく音が耳を掠めると、村田の体重がのしかかってきておれは背をのけぞらせた。





…とりあえず、村田誕生日おめでとう!笑