子供みたいな悪あがき






おれを探して。
お前にだけ、逢いたいから。
お前しか見つけられない場所に居るよ。



ちょっと馬小屋の様子を見てくると告げて、おれは別の方向に向かった。
多分誰かが尾行しているのも解っていたけど、それはどうでも良い事。
眞王廟には誰も付いて来れないと知っていたから。
村田の部屋の右手奥から、最後に訪れて以来一度も入る事の無かった部屋に向かう。
木の扉を開けるとそこには村田はいなかった。
そんな事、知ってた。
だって村田はまだ、執務室にいるから。

「…」

相変わらず、何も変わって居ない部屋。
おれが村田に本当の別れを告げられてから、何ひとつだって変わってない。
ベッドに近寄ると、出窓に置いてある写真立てをそっと起こす。
金色の髪の、凛々しい人。
そう言えばこれは、倒れて無かったのに。

「…どうしてこうなったんだろ」

写真立てに呟いたはずなのに、まるで自分に言っている気がして首を振った。
おれはどうして村田を困らせたんだろう。
あんなにも泣かせて、悲しませて。
あの時幾らだって、おれは我慢出来たはずだ。
でも、出来なかったのは。
…村田を、好きだったから。

『くっついて抱き合って幸せを分け合って、それだけが好き合ってる事?』

解ってた。
いつかこうなってしまう事も、頭の片隅で知っていた。
でも幸せだって、確かにそこにあった。
おれはそれを壊したくないって望んでいたはずなのに。

『僕は渋谷が好きだから、…だから、離れたんだよっ…』

おれだってそう思った。だから最初は抵抗しないで別れを受け入れた。
でも、離れたら今までの何倍も村田が好きになった。
これがいつか思い出話になるのなら、未来なんていらない。

「…おれ、いよいよダメみたいだな」

ベッドに転がると変化の無い天井を見上げる。
姿を消してからもう大分経ったと思う。
でもおれは帰らない。
村田が探しに来てくれるまで。

「早く…来いよ。おれがここにいるのも、解ってるんだろ?」

村田がいないと心が足りない。
だから迷子になった子供のように、村田を待つしかない。
おれの心の半分は、村田が持っているんだから。



さっきまでそこにあった太陽は、もうおれの見えないどこかに消えようとしている。