恋人はねこみみがお好き





「ねね、渋谷はどの耳が好き?」

「え?」

そう言って村田が差し出してきたのは何やら某ディズニーランドでしかつけられないような…いわゆる動物耳。

「どうしたんだよこれ」

「何って、買ったにきまってるじゃない」

買ったって。おれの恋人は頭はいいがときどき何を考えてるのか解らない。きっとこれ、あやしー通販で買ったんだろ。

「今ってネットで何でも買えるから便利だよねー」

ほら、やっぱりな。
呆れた眼差しには気付かないようで、村田はウキウキと耳の説明をし始めた。

「ま、それはいいとしてさ、渋谷はどれがいい?ねこみみ、うさぎみみ、いぬかみ…じゃなかった。いぬみみ、あとラムちゃんみみ!」

「ラムちゃんって…」

「え、そこ反応しちゃうだなんて渋谷もやっぱりうる星ファン?僕としてはめぞん一刻の響子さんが…」

「はいはい、それはいいから…で、この耳、どうするんだよ」

「むっ、僕の話を遮るだなんてやるじゃない渋谷」

全く。話がかみ合わない。おれとしてはこの状況から抜け出してゆっくり野球雑誌でもみたいのだが…村田が邪魔で動けない。

「村田ー、どいてほしいんだけど」

「やーだー。渋谷にどの耳がいいかきいてないもん」

「えー、じゃあねこみみ」

「ねこみみね、…僕の思った通りだ」

子供のようににっこりと笑う。そしてその耳を…ちょっと待て、何でおれにつけようとしてるんだ?

「ち、ちょっと待て。おれにそういうものは着けるな」

慌てて制止すると村田は不服そうに口を尖らせる。って何でお前がそういう顔するんだよ。

「何でー?折角渋谷に似合うと思って買ったのに!」

そんな事だろうと思ったよ。全く村田は…頭だけよけりゃいいってもんじゃないよな。

「おれはーこういうのはーいやですー」

「僕はーこういうのがーいいですー」

「こういうのって…お前結局、耳着けて動物プレイーとか言い出すんだろ?」

「…やだなー渋谷、案外乗り気じゃない」

「いや、違いますから」

嬉しそうににっこりとする相手に間違ってますから!とツッこんでみるが効果なし。ホントそういう事しか考えてないのかこいつは。

「ねーしーぶーやー、着けて?」

「可愛く言っても萌えませんから。村田って本当、エロに関しては勝利思考だよな!」

そう言い放つと村田の顔が硬直した。あれ、まさか結構効いた?

「…それは、かなり、打撃なんですが」

「じゃあもっと言ってやるよ、エーロ、エーロ、もーそー、もーそー!」

「うっ…渋谷のおばかさんめ…!」

ぐっと眉間に手を当てて悶々とする村田におれは少し勝ち誇った気分でいた。
しかし、しかしだ。おれは村田の凄さをまだ、理解していなかったのだ。

「…村田、解ったか?動物耳を相手につけさせてエッチ、なんてアキバ系と一緒なんだぞ?辞めとけ辞めとけ、今なら間に合うから」

そう宥め好かしてどうにか安全な方向に持って行こうとしたその時、村田が顔を上げた。

「…そうだね渋谷、僕が間違っていたよ」

「だろ?じゃあもうその耳はしまって…」

「それなら僕がつければいいんじゃないか!」

「…は?」

今、なんて言いましたか村田さん。

「僕がこの耳をつけて渋谷ににゃんにゃんしちゃえばいいんじゃないかー!」

「ちょ、ちょっと村田?」

一瞬右から左に受け流しそうになったおれは、村田が微笑みながらねこみみを装着するのを見て我に返った。待て村田、お前は一体どーしちゃったんだ!

「ほら渋谷ー、渋谷の好きなにゃんこだよー」

おれが呆然としているのを尻目にどこからか取り出した…しっぽらしきものを腰につけた。へーこういうのもあるんだ…じゃなくて!

「村田?何してるんだよお前、そんなコスプレおれは求めてないんですけど!」

「だって渋谷が嫌って言うなら僕がつけるしかないでしょ、さーそれでは、しよっか」

「しよっかって!簡単に言うな!」

「…ごめん渋谷」

っていきなりしゅんとするな!もう何だってこいつは態度がころころ変わるんだよ。

「…そんなにしょげるなよ」

「だって渋谷を怒らせちゃったんだもん、悲しいにゃん」

にゃんって!にゃんって言ったよな村田。…あー、今日は何だ?夢か?厄日か?

「…にゃんにゃん言うともっと怒るぞ?」

「それは…嫌、だにゃ」

おれを跨いで寂しそうに上目遣いに様子を伺ってくるから何とも言えない気持ちになる。
村田はいつだっておれに対しては従順で…。そんな村田を本気で怒ったりすることないのも、知ってるくせに。

「…あーもう、おれの負け」

「え?」

「いーよ、ねこみみプレイ」

「ほんとにいいの…?」

「そのかわり、おれは絶対に着けないからな」

結局おれが折れるとは。もしかしてこうするのが村田の策略だったりして。いやでもまさか…そこまで頭は回らないよな。

「…それはちょっと残念だけど、」

「じゃあ辞めてもいいんだぜ?」

「…それはいやだにゃー」

小首を傾げてやると村田は嬉しそうな顔をしてネコ語を使ってきた。村田がこういう風にしゃべるのってちょっと面白いかも、なんて悠長に考えてたらすぐさま覆いかぶさられて。

「村田」

「今日はご主人様をいっぱい気持ちよくさせてあげるのにゃー」

「ご、ご主人様かよ」

「そうだにゃ、僕の使命はご主人様にいーっぱい気持ちよくなってもらうことなのにゃ、だから…渋谷」

耳元に口が寄せられて、思わず喉がごくりと鳴った。

「…僕がきみに飼われてる間は、僕以外の猫に気持ちよくされちゃあだめだから、にゃ?」

「…っ」

…なんだよ、今の。そんな風に言うなんて反則だ。そんな、甘ったるい声でいきなり。

「…約束、してにゃ?」

「んっ…!」

そうして耳たぶを噛まれたらもう、こんな声しか出ない。でもそれがおれにはちょっと悔しい。

「…ご主人様」

「…っは」

耳の中に舌は入れるな。そう言いたいけど恥ずかしくて言えない。きっと言ったらこいつ「感じてるの?」なんていうから。

「渋谷」

「…」

そういう風に顔を覗き込まれるのも実際、恥ずかしいんだけど。だっておれ、きっとスイッチ入っ
ちゃった顔してる。
村田が眼鏡を外すと、両手で両頬を包み込まれる。その手の感覚が妙に暖かくて、湿っぽくて、やらしい。

「…っ」

「…っふ、」

そういう風にしか考えられないおれもおれだけどさ。

「…ん」

唇が合わさって、合わさったまま離れない。村田の舌は本当に機敏な動きをするからおれはその感覚に捉われてどうしようもなくて。
いつだってそうだからおれは鼻で呼吸するのが随分、上手くなったと思うんだけど。

「…っく、は」

時折り漏れる水音が湿った空気を含んだ部屋に充満していって、そのままおれたちが溶けちゃいそうな感覚に犯される。
多分これも、村田のワザだ。
唇が開放されて初めて吸った酸素はもう、村田の空気でいっぱいで。思わず顔が熱くなった。

「…ご主人様」

ゆっくり前がはだけさせられて、おれはもう成す術も無いまま村田に裸体をさらしていく。
ああ、今日もまた流されるのか。
見下ろしてくる瞳に目を逸らせないで入ると、村田もじっと見つめてきて。

「…なんだよ」

「…渋谷が見つめてくれるから、僕、嬉しくって」

「…」

「渋谷が見つめてくれるなら僕、何時間でも見つめあってたいなー」

「…言っとけ」

「あ、何で目を逸らすんだにゃー」

そんなの、恥ずかしいからに決まってるだろ!
村田はいっつもこうやっておれが恥ずかしがる台詞ばかり言って…。ちょっとはおれの心境ってモンも考えろよ!

「…ねぇご主人様、ご機嫌ななめですかにゃ?」

「…」

「…じゃあ僕がご機嫌よくしてあげるにゃ」

「…っあ!」

ぺろりと、晒した素肌を舐められて目を瞑る。は、と息が漏れたら村田はにっこり笑って胸に顔を近づけた。
舐められて突起が硬くなってる事がわかるなんて、恥ずかしい。

「や…!」

片方の突起を口に含まれ、舌で愛撫される。もう片方はねこ手で摘まれて、擦られる。
そんなことをされたら性経験に乏しいおれなんかはイチコロだ。

「…ご主人様のここ、とってもご機嫌いいみたいだにゃ」

「…村田のバカ」

「バカなんて言っちゃ嫌だにゃー」

バカだ。こいつは本当にバカだ。
ねこみみつけてふざけた事言ってるただのバカとしか言い様が無い。
なんでおれ、こんな奴好きになっちゃったんだろ?

「…あ、あ」

なのにこんなに感じちゃってる自分が悔しい。
ちょっと胸を弄られたくらいで声なんか上げちゃって。
腕に力が入らなくて、もうどうにでもしてください的状況で、まな板の上の鯉の気分だ。
ああそうか、だから猫に食べられちゃうんだ…。

「…ご主人様ー?ご機嫌直りましたかにゃー?」

「……」

…って、おれこそバカか。
ちょっとだけ可愛いなんて、思っちゃったじゃないか。

「…渋谷?もしかしてもう、きちゃってる?」

「っ!…いきなり、揉むなっ!」

にっこり笑いながら下半身を揉みこまれて背が跳ねた。
勿論こんなにゃんにゃんされちゃって反応しないオスがあるかって話で。

「だって放心状態だったからさ…僕ちょっと、ドキドキしちゃった」

「…うっせ」

「そんなに噛みつかなくてもいいのにー」

頬を膨らませる村田に小さく舌を出して睨む。
おれがそこで「…村田」とか言って見つめあったらそれこそキモイじゃねーか。
でもま、体が熱を帯びてしまってるのは戻れない事なので、素直に背中に腕を回す。

「ご主人様、もうちょっと快楽に溺れたいですかにゃ?」

「…」

嬉しそうに抱きしめ返してくる相手にため息を吐きながら小さくキスを交わす。
結局火が付いたら止まれないのがおれで、それを村田も良く解ってる。
だから本当に怒る事はしてこないし、結構エッチに関しては優しいと思う。
…と言っても、経験なんて村田としかないんだけど。

「ねぇ渋谷…僕を欲しいって思ってくれてるんだよね?」

「ん…ぅ」

腰のラインをなぞられて、耳元で甘ったるい声が囁く。
欲しいというか、気持ちよくなりたいんだおれは。
それが結果として村田を受け入れる事になったとしてもそれイコール村田が欲しいってわけじゃ…

「渋谷」

「…ん?」

「僕は渋谷がどうしても、欲しいなぁ…」

「っ」

ため息を吐く色っぽさで、吸い付くようにこめかみにキスをされた。
思わず目を瞑ると村田が瞼の向こうで微笑う気配がして。
確認する暇も無いまま、唇が落とされる。深いキスだ。
感覚に必死に追いつこうとすればするほど、村田の舌にかき回されて痺れていく。
その間にも村田の手は器用におれのズボンを脱がそうとする。

「っは…ぅ」

「ん…」

あ、チャックが下ろされた。
ボタンが…外れた。
ゆっくりと手が入ってくる。焦らすみたいに、本当にゆっくり。
それがはみ出しそうに上向いてる筈のおれのに、近づいてく。
あ、もうちょい。
もうちょい、もうちょいで掠る…あと、少し…

「ぁ」

「…」

「っぁ、んぅー…!」

「…っ」

「あっ…ぅ…ぁ…や…」

「…ん」

「…んぅ、んっ…っは…ぁ」

体がビクビクして、思わず身を捩る。
先端が村田の人差し指で円を描く様に撫でられて、たまんない。
でも唇は未だ、塞がれたまんまだから敵わない。
顔を背けても舌が執拗に追ってきて。
あ、やばいってそんなにしたら。出る、出ちゃう。村田。

「…っは、…あ?」

「…っ、しぶや、まだ駄目だよ」

…なんでおれがイキそうなの解ったんだよ。
そう言おうとしたけど辞めた。多分愛の力とか何とか返してきそうだし。
でもこの状態はどうにも、辛いんですが。

「…おれ、もう限界なんだけど」

「僕ももう限界だよ」

「てかさ、なんでお前だけ服着てるんだよ…おれマッパなのに」

「…ご主人様のご命令とあらば」

そう皮肉っぽく笑うと村田は、Yシャツのボタンを手早く外し、ズボンをするりと脱いだ。
手元も見ずに服を脱ぎ捨てるとそれはベッドに下にバサリと落ちる。
抵抗も無く村田が脱いだ下着の中から誇張するように見慣れたブツが出てくる。
負けずとも劣らず、成長しきって。

「村田も…限界じゃん」

「だからそう言ったでしょ?」

無意識に差し伸べた手に縋るようにくっついてくるから、そのままぎゅっと抱きしめてみる。
当たった熱に息が漏れて、村田が肩越しに笑った。

「ご主人様は敏感ですにゃー」

「うるさい、つーか取れよ耳!」

「やだ、今日はねこみみプレイって言ったもんね」

体を離すと村田はその勢いで、最早ベッドにくくりつけられているおれの下腹部に顔を寄せた。
あ、と思った瞬間にはもう、息子に柔らかい感覚が走って。

「ちょ…むらた」

「僕は猫だからねー、ご主人様のここ、ぺろぺろしてあげるにゃ」

「んなの、いい…っ」

「ご主人様のミルク、まだ白くないにゃあ?」

だからって、先端を舐めるな!
でも止めたい気持ちよりももう気持ちよさが勝ってしまってただただシーツを握り締める事しか出来ない。
絶妙なタイミングで口に含まれたらおれはもう、白旗をあげるしかなくて。

「や…あ、あ、むらた、出る、出る」

「ホントだ、白いの出てきたよー」

「いうなぁ、そーゆーことはっ…」

「じゃあ、隠してあげるにゃ」

「ってちょーっ…!!」

「っむ…」

「あ…あ、あ…」

びくんびくんと息子が脈打って、それは止められるはずも無く出て行ってしまう。
あー…やってしまった。

「…んー」

「…むら、た」

口元を手で押さえて見上げてくる村田に、息を荒げながら見つめ返す。
村田の口に射精してしまった。
どうしよう。初めてだ、こんなの。

「んっ」

「……ってええ?村田!」

村田の喉がごくりと動いて、やっと事の重大さに気付いた。
まさか飲んだのか、村田!

「…流石に苦くて、どろどろしてて濃い、けど思ったより飲めた…かな?」

「村田!何飲んでるんだよお前」

「何って、渋谷のミルク」

「ミルクとか言うな!それは飲み物じゃないから!」

「…でも僕の口に出しちゃったじゃない」

「……ご、ごめん」

口周りを指で拭うと村田はその指すらも舐めた。それを目の当たりにしてやっと、おれのした事の恥ずかしさに気付いてのた打ち回りたくなる。

「謝らないで欲しいにゃー?」

「だって…だってだっておれですら味わった事の無い、いや寧ろ勘弁!って思ってるおれの…アレをだな、村田に飲ませるなんて」

「僕だって自分のは飲みたくないけどねー。でも渋谷のは別」

「別って…」

「渋谷が僕の口でイッてくれるのも嬉しいし、可愛いトコ見せてもらったから全然構わないよ。それに好きな人のだしね」

…顔から火が出そうに熱い。
このやろ、またべらべらと恥ずかしい事を!

「…そう、ですか」

「そうですにゃー」

脱力してベッドに倒れこむと、村田がゆっくり見下ろしてくる。
ああ、なんだってまだねこみみ付けてるんだよ。

「…渋谷、そろそろ僕も気持ちよくなりたいんだけど」

「…」

ギシ、とベッドが揺れて今日何回目かも解らないキスが降る。
おれも出来ればもう1回くらい気持ちよくなりたい。
今度はあの、擦られる感覚で。

「…渋谷?」

キスの合間に両手を伸ばして村田のねこみみを取る。
不思議そうに見つめる眼差しに、少し高鳴る胸が悔しくもあり、嬉しくも、ある。
自分の手で、自分の頭にそれを付けると村田は一瞬間を置いて、それから嬉しそうにはにかんだ。

「やっぱり渋谷にはねこみみ、似合うなぁ」

「…あんまり嬉しくは無いけど」

「でも僕は嬉しい…」

「…っあ、う…」

「渋谷、すっごく可愛いよ」

つぷ、と進入した指の感覚に身をこわばらせた。
こうなると村田のおちゃらけた台詞に付き合ってる余裕も無くなってくる。
神経を出来るだけそこらに散らして、力を抜こうと必死になる。

「…う」

「渋谷、無理しないで…ゆっくりやるから」

「…ん、」

なのにこういう時に限って村田は物凄く優しくて、それでおれの熱も上がってしまう。
多分だけどおれ、こういうギャップに弱いんだと思う。
村田の本気スイッチが入っちゃうとおれの思考はいつも停止して、暴走してしまうんだ。

「指、増やすよ…」

「は…ぁ」

「もう少し…我慢して?渋谷…」

何度も優しく呼ばれる名前に飽和してしまう簡単な思考回路。
これが村田の計算なのかは解らないけれど、すぐにハマってしまう。
指がおれの中を多い尽くして、村田を迎える準備が整う頃にはおれの方も臨戦体制になってて。

「…渋谷、もういいかにゃ?」

「…ん」

小さく目で頷くと、村田は優しく笑ってくれる。
それってすごく、安心する。
おれ、そういう所は好きなんだけどな。

「挿れるよ…?」

「んっ…」

入ってきた。最初が入れば後は結構楽に進むんだけど、やっぱりいつも手間取ってしまう。
でも勢いで入れない所は、村田の趣味なのかもしれないけど。

「渋谷のナカ、相変わらず熱いね」

「お前も…あっちいよ」

熱くて、それが溶けるみたいに混ざり合ってく。
いつからこの感覚に慣れたんだろう。
そんでもって、たまに無性に、欲しくなるなんて。

「そんなに力まないで大丈夫だから」

どうしようも無くて腕を伸ばした。
何がどうしようもないかはよく、解らないんだけど。
でもそうしたら村田はすぐに、おれの胸に身を寄せた。
食い込むような感覚に眉を寄せたのはお互いだったけど。

「…っ、渋谷、ごめん」

「…いや…だいじょぶ、だから」

「…冷静に考えたらこんな体勢取ればぶすっといっちゃうよね。…痛かったでしょ?」

「へーき…おれが、悪い」

「…でもちゃんと入った、ね」

「うん」

村田の少し慌てた顔につい笑みがこぼれた。
繋がってる箇所は少し、じんじんと響いているけれど。
村田は依然しっぽをつけたままで、それがピンと立ってるのが可笑しい。
でもおれだって、耳を着けたまんまだ。

「渋谷…動いて良い?」

「…おう」

村田だって、可笑しいって思ってるだろ?
でもそんな事はもう気にならない。
それくらいにテンション上がっちゃってるわけ。
恥ずかしいですが、ね?

「…っ」

「…、んっ…あ、」

村田の腰が動いて、後ろにやってくる衝撃と漏れる水音が恨めしい。
耳から、ナカから、もう色んな所からおれを襲ってくる。
村田がそうさせているのかおれがそうさせているのか解らなくなって、いつだって途中で考えるのを辞めてしまう。
どうせ答えなんてあってないようなものだ。

「しぶや…可愛い、よ」

「…っ、あぁっ」

村田の動きに合わせて勝手におれの腰が動く。
その方が気持ち良いんだと体は知っているんだ。
それを知ってか知らずか、にっこりと笑う村田は妙に色っぽい。

「相変わらず、気持ちイイ、ねっ」

「そ、りゃ…どーもっ…」

「…だめだ、僕、もうすぐ限界だよ…っ」

「はっ…そんなら、いっしょ、に」

呟くと村田がおれのを握ってくれる。
こいつのどこにこんな体力があるのかは謎だけど、村田はいつも一生懸命おれを抱いてくれる。
表情は余裕だったりするんだけど、オーラみたいなものが違う。
別にスピリチュアル能力は無いんだけど、なんつーか、愛で溢れてるんだよな。悔しいくらいに。

「あ…し、ぶや」

「おれもっ…、いっしょに」

自分の手を村田の手に重ねて、一緒に動かす。
もう片方の手も、おれの腰から外させて引き寄せる。
なぁ、村田にも見えちゃってたりするのかな。

「…しぶや、好きだよ」

「……っ、うん」

「全部、ぜんぶ、好き…っ、ゆう、りっ」

「あっ、…むらたぁっ、」

「っー…!」

出る、そう思った瞬間おれは村田の唇を塞いでいた。
足は離さないと言わんばかりに村田の腰にしがみついて。
出て行くあの感覚に身震いしていると、奥で熱いものが広がった。

「……っ、はぁ…」

「…は…ぁ、」

唇を離すと村田が放心した様な表情で息を吐いた。
おれもそれに併せて力無く笑う。
熱くて、暑くて、でも何だか心地いい。

「…渋谷…」

「…んだよ。有利って、呼ばないのかよ」

「…さっきのは、特別」

「おれ、結構嬉しかったんだけど」

そう照れ臭そうに言うからわざと素直に返してみれば、村田の頬が少し緩んだ。
やられた、とでも言いそうな顔。

「…でも普段はまだ、言えないかな?」

「…そうですか」

「だって恥ずかしいんだもんー」

「それが恥ずかしいならこの状況は恥ずかしくないのかよ」

呆れて言うと、誤魔化す様に目元にキスされる。
変なところで照れ屋だからな、村田は。

「渋谷がいつもこの耳つけてくれれば、幾らだってゆーにゃんって呼ぶんだけどな」

「ふざけ」

「つれないなぁ、渋谷ったら」

「こーゆーのはもうやらないからな?」

「えー、つまんないの。じゃあもうこのまま1回…」

「ちょっと待て」

口を尖らせた村田がもう1ラウンド始めようとするのを両手で制止する。
全く、調子に乗るんじゃない。

「だって渋谷がこれが最後って言うならもっと可愛い姿を焼き付けておきたいじゃん!」

「おれはもう嫌だ」

「僕とするのが?」

「そういう意味じゃねーよ」

「じゃあもう1回だけ!お願い!」

「嫌と言ったら嫌…っておい!」

「ね、渋谷っ…いいでしょ?」

ぎゅ、と握られた息子に慌てて身をおこすと、まぁまぁと言わんばかりに押し倒されて。
あーもう!

「村田っ…!」

「っ?」

キッと睨み付けて村田の耳を塞ぐ。
突然の事にふいを突かれた表情の相手に、思いっきり口を開けて。

「おれは、こんなプレイじゃなくて普通のエッチがしたいんだにゃー!」

「………」

村田の耳を開放して、着けていたねこみみを外す。
くそう、こんなムキになった自分が悔しい。
しかも絶対今のおれ、顔が真っ赤だ。

「…わかったか」

「……うん」

村田も腰につけていたしっぽを外した。
その顔が心なしか、赤い。

「村田が照れてんじゃねーよ」

「だって…あんな告白されたら舞い上がっちゃうよ、僕」

「…告白とか言うなー、照れるから」

おれだってこんな事言ったの初めてだよ。
だから村田が照れるっての解るけどさ。
でも本当、そんなに嬉しそうな顔されると恥ずかしいんですが。

「ね、もう一回聞いていい?」

「何?」

「…渋谷は僕の事、欲しいと思ってくれてるの?」

頬に手が触れる。
それだけでもうスイッチ入りそうなおれの事、解ってるくせに。
気持ちよくなりたいのは村田とだからって、知ってるくせに。

「…勿論」

言わないと満足しないんだから困る。
でも、そんな村田が好きなんだから仕方ない。

「…よかった」

答えを知ってるくせに、噛み締めるように笑う村田が何だか愛しくて、おれは触れられた頬に手を重ねた。
そしてそのままもう重ねられた唇が深くなっていく感覚に、素直に幸せだって、思ったんだ。








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