愛に変わる





目が合う度キスがしたくて
恥ずかしい程触れたくて


君がいる毎日は
そんな事ばっかり









村田に言われた。

「また脳内場外ホームランだね」

「え?」

「上の空って事」

「最初からそう言えよ」

ベッドに座ってのんびり麦茶を飲む村田に目を向けるとやれやれ、と言った表情をされる。

「最近の渋谷はまるで今日みたいだよ」

「今日みたいって?」

「草野球の練習日に雨が降っちゃって練習が出来ないみたいなー」

「は?」

「欲求不満って事」

「ブッ」

思わず飲んでいた麦茶を噴き出す。すかした笑顔の村田はやっぱりね、という顔で。

「図星?」

「よ、よよ欲求不満って!」

「やだなぁ、そんな大声で」

「お、お前が先に言ったんだろっ?」

慌てて声を潜めると村田はケラケラと笑いながらグラスを机に置いた。

「相当溜まってるんでしょ?」

「うっ…」

痛い所を突かれて思わず声が詰まる。眼鏡の奥の瞳が笑ってる。

「あ、今誰かを想像しただろ」

「!なんで…」

「そりゃーエスパー村田ですから」

「何だそれ…」

思わず脱力するおれに村田はニヤリと笑いかける。

「で、誰を想像したんだい?」

「なっ」

「名付け親?教育係?…うーんそれとも…婚約者?」

「……」

「あれ?渋谷君が赤くなったぞ?」 

「赤くなんてっ…」

「ふーん、婚約者かぁ。渋谷ってば可愛い系が好みなんだね」

「何でヴォルフだって…」

「違うの?」

駄目だ。完全に村田のペースじゃないか。
あえてこの話題には今まで触れてなかったのに…。

「…あぁ、当たりですよ当たりですよーッ!」

…遂に言ってしまいましたよ。
そんなおれの様子に満足した様に村田は足を組む。

「彼は情熱的だもんねー、さぞかし寂しい夜を過ごしてるだろうに」

随分と楽しそうな村田に腹が立つが、おれを想いながら眠りにつくヴォルフを想像したら少しだけ嬉しくなった。

「…それはおれだって一緒なんだけど」

「う、わー。それはノロケですか原宿くーん」

「の、ノロケなんかじゃねぇよ!しかも原宿言うなっ」

ノセられてついつい本音をこぼせばツッコまれ。村田ってほんっといい性格してる。

「ごめんごめん、だって渋谷がこういう事言うの初めてだったから」

そう言いながら苦笑すると麦茶をぐいっと飲み干した。
そりゃ、女子じゃないんだから自分の恋バナなんてしねーって。

「だって村田に言ってなかったしー」

「でも今は知ってる」

何だその笑みは。

「そりゃそうですが」

「ドコまでいってるの?」

「……」

「渋谷くーん?」

「……ロンドン」

呟くと村田が声を立てて笑った。それは多分、おれの耳が熱いせいだ。
つーか今日の話題はこのテの話なんですか?

「渋谷面白ーっ!」

「人をからかうなっ!」

外の雨に比べ、部屋の中は明るい話題だ。断じて家族計画な訳では無いが。

「でもさぁ渋谷」

「何だよ」

「そろそろ限界でしょ?」

「…う」

「童貞喪失するとねー、もう自分の手が相手じゃつまらないよね」

「…村田って童貞じゃないんだ?」

「早く婚約者に会いたいだろ?」

「そりゃ会いたいけど…っておれの質問無視?」

「会いたい?」

「…会いたい」

「どうしても?」

「…どーしても」

「会って何するの?」

「何って…そりゃ」

「みなまで言うなー」

「じゃー聞くなっ」

ツッコミを入れると村田はまたもケラケラと笑う。だから何が楽しいんだってば。

「そっかそっかー」

「何笑ってん…うわっ!!」

怒った拍子に床に置いたグラスが倒れる。
麦茶がさーっと床に広がって。

「ひゃー、やっちまった」

「渋谷、雑巾ぞーきん」

慌てるおれに対して村田は何故か余裕に指示を出す。お前は岩か。

「おう、雑巾取ってくるっ」

ドアを開けて洗面所に向かおうとすると、何故か村田も着いてくる。

「僕も行くー」

「待ってていいのに」

「いやいや、ついでにトイレ借りますんで」

「あっそ…」

一緒に階段を降りると洗面所に向かう。おい村田、トイレはあっちだぞ。

「村田、トイレはあっち…」

「あ、渋谷洗濯機が!!」

「へ?」

村田の声に洗面所内を見ると、おれ達以外は誰もいない筈の我が家で洗濯機がごうんごうん回っている。

「あれ?」

お袋が回したまま買い物に行ったのか?

「蓋閉めないと脱水してくれないよ?」

「あ、そうだよな」

のん気にツッコむ村田におれも普通に蓋を閉めようと近づいた。
だが、その中には水しか入っていない。

「あれ、何も入ってないじゃん」

覗き込めばただぐるぐる回る水が見える。スイッチを止めた方がいいのだろうか。
そう思ったら。

ぐいーっ。

「ギャ?!」

まさかまさかまさか

「まっさかさまー?」

「まっさかさまってか、助けッ…」

とは言っても多分いつものアレなんだから…逆らえる訳無いし!

「渋谷ー」

「うえぇぇっ?」

がぼがぼと洗濯機に引き込まれていくおれを見送りながら村田は手を振った。

「ちゃんと避妊はするんだよー」

「……」

…誤解される様な発言はよせ。





…ブク。
ブクブクブクブク…


「ぶっはぁーっ!!」

盛大な音を上げ、水の中から思いっきり頭を出す。回れ回れメリーゴーランドの如く回されてスタツアしたおれは到着直後に船酔い状態。
この温かさはどうやら、何処かの風呂に落ちたらしいけど目が回ってよくわからない。

「お、おえー」

あぁ、回る回るよ世界が回る。喜び悲しみ繰り返し…って。

「あれ…」

ぼんやりと周りを確認しようと顔を上げると、見たことのない景色だった。

「どこだ此処…」

「ゆ、ユーリッ?!」

「へ?」

呟くと、いきなり聞き覚えのある声がして慌てて横を見る。

「あー、ヴォルフ!!」

するとそこには、お湯も滴る美少年が。
濡れた髪をかきあげる仕草にドキリとするのも束の間、ざばざばと音を立てて間を詰められた。

「おいユーリ!帰ってくるならもっと場をわきまえろ!お陰で顔からお湯を被ったじゃないか!」

おれが頭を出した時にモロにお湯の直撃を受けたのだろう。少々不機嫌な顔をしたヴォルフは髪から水滴を垂らしている。

「んな無茶な」

「大体お前、服を着たままじゃないか!」

「不可抗力だって…あ、そう言えば此処って…」

見慣れない広い風呂にヴォルフが居て。この内装の趣味からするともしや

「ぼくの城だ」

「おおっ、やっぱりー?」

初めて来たよヴォルフの城!いつもは血盟城にいるからなー。
何か新鮮なカンジ。

「へーっ。ヴォルフ、城に戻ってたんだ」

「ぼくだってお前がいなければ城に戻ってるぞ。婚約者なのにそんな事も知らなかったのか、へなちょこめ」

「へなちょこ言うなー」

答えながらきょろきょろと辺りを見回す。非常にゴテゴテした造りの風呂はロココ調を思い出させる。ヴォルフらしいというか。

「しかしユーリがこんな場所に来るとはまた珍しいな」

「うん、此処じゃギュンター達がくるのも相当かかりそうだなー」

いつもなら直ぐに汁を垂らしたギュンターと爽やかコンラッドがやってくるのに。
ヴォルフの城じゃ時間がかかるだろう。

「何か食べに行くか?」

「あ、うん…けどヴォルフは今入浴中だろ?」

ざば、と立ち上がったヴォルフを見上げる。一瞬腰に巻いた布に視線が行くが、慌てて目を逸らした。

「また後で入ればいい」

「あ、でもそれなら」

おれも一緒に入ればいいだけの事だ。どうせ濡れたついでだし。

「おれも少しさっぱりしたいからもーちょい入ってようぜ?」

な?と笑ってヴォルフを見る。

「あぁ、ぼくは構わないが…」

「うん、ちょっとはのんびりしないとねー」

折角の広い風呂だし、初めて入るわけだし。風呂好きとしては抑えておきたい。

「じゃあ早く服を脱いでこい」

「りょーかい」

湯船から上がると、着ていた服を脱ぐ。べしょ、と音を立ててシャツが床に落ちる。
ズボンも脱いで、びしょ濡れになったパンツも脱ぐ。何だか体が軽くなった気分だ。

「やっぱ風呂は裸じゃないとな」

再び湯船に入ると、じーんと体が癒される気がする。そのままヴォルフの側に近付くと、照れくさそうに目を逸らされた。

「ヴォルフ?」

声をかけると目が合う。だけど何だか久しぶりであまり直視出来ない。

「…?」

「…」

ヴォルフも何かいつもと違うというか。いや、さっきまては普通だったけど落ち着いてみたら何だか気恥ずかしくなってしまったというか…。

「な、なぁヴォルフ」

「な、何だユーリ」

「ぐ、グレタは元気にしてる?」

「あ、あぁ、たまに手紙を寄越すぞ」

…あぁ、恥ずかしい程にギクシャクしちゃってるよ。
ちら、とヴォルフを盗み見すると、濡れたうなじが湯のせいか赤く色づいているのが目に入った。

「ッ」

思わず唾を飲む。すると村田の言葉が耳元で回った。

『相当溜まってるんでしょ?』

や、溜まってる事は溜まってるけど今そーゆー事を言うな村田!

『そろそろ限界でしょ?』

限界です、限界ですが…ああっ!だーかーら何でこんなセリフを思い出しちまうんだ!

「ユーリ?」

「は、はいッ?」

慌てすぎて声が裏返った。そんなおれをヴォルフは不思議そうに見つめる。

「…どうかしたか」

「い、いや別に特に何も」

まさか脳内漫才中だなんて言えっこない。内容が内容なだけに尚更だ。

「何か考えていたのか?」

「え?あー、まぁ」

「まさか他の男の事じゃ無いだろうな?」

「そんなわけ無いっ…」

あ、でも村田と脳内漫才してたからな。

「っ、何だその間は?!まさか…お前向こうで浮気してるのかっ?」

ヴォルフが弾かれた様に声を上げる。
あぁ、違うんだって!

「浮気なんてしてませんっ!」

「じゃあ何を…っ!」

「お、おいヴォルフ!」

突然くらり、とヴォルフがよろめく。おれの肩に手を置くと俯いて息を吐いた。

「何でもない…少しふらついただけだ」

「おい、もう出ようぜ?」

平気そうに言うけれどこのままじゃのぼせてしまう。そうなる前に少し休まないと。

「あぁ…そうだな」

俯いていたヴォルフが頭を上げる。すると、白い顔を仄かに赤らめて息を吐くヴォルフと目が合った。
しかも超至近距離。

「…っ、」

「ユーリ、出ないのか?」

目の前の天使に再び唾ゴクリ。出ないって何が出ないんですか…ってそうじゃないそうじゃない!

「で、出ます出ます」

立ち上がると脱衣場に急ぐ。何だかもう、色んな意味でヤバくなってきた。

「ユーリ」

「え?」

脱衣場で出してもらった服に着替えようとしていると、ヴォルフが何故かバスローブを羽織っていた。心なしか頬が赤い気がする。

「…ぼくは少し部屋で休もうと思っているんだが…」

そうして向けられた瞳は、不安と期待に満ちていて。
胸の奥がドキリと疼く。

「…お前も、来るか?」

言われた瞬間、思わず頷いていた。








「…すげー部屋だな」

「そうか?」

ヴォルフの趣味なのかツェリ様の趣味なのかは定かでは無いが、部屋中がキッラキラのゴッテゴテだ。おれの部屋とはまた違う華やかさが漂っている。ベッドも魔王専用よりかは劣るけどかなりデカいし。
そこに2人で並んで腰を落とす。

「ユーリ、さっきの話だが本当に浮気などしてないだろうな?」

甘い雰囲気になると思いきや途端に口を尖らせるヴォルフに少々気が抜ける。

「そんな訳無いだろ?」

「…ならいいのだが」

そう俯くヴォルフは言葉とは裏腹に納得していない様子で。
無意識に肩を抱いていた。

「…納得してないだろ」

「納得してる」

ヴォルフはまだ俯いたまま。

「おれが浮気してないって言ってもまだ不安?」

「そんなわけ無いッ…」

耳元で聞くとバスローブの膝をぎゅっと握り締めて頬を染められた。
そんな事をされたら胸がトキメいて仕方ない。
全く、どこでそんな仕草覚えてきたんだよ。

「…どうすればヴォルフはおれを信じてくれる?」

「ユーリを信じてない訳じゃないっ」

寂しそうに囁いてみればヴォルフがガッと顔を上げ。
あぁ、そんなきらきらした瞳で見つめないでくれ。

「わかってるよ」

そう微笑むとヴォルフは一瞬泣きそうな顔をして、胸に飛び込んできた。

「うわっ」

「ユーリ…っ」

天使の突然の行動に頬が熱くなる。髪からシャンプーの香りがして、それが鼻をくすぐった。

「ユーリ、逢いたかった…」

胸にヴォルフの額が当たってる。ドキドキしてんのがバレるかもしれない。
だって好きな人にこんな風に甘えられたら、健全な男子高校生としては我慢の限界ってゆーか!

「ヴォルフ…おれだって逢いたかったよ」

高鳴る鼓動が段々興奮に変わっていく。指がゆっくり、ヴォルフの着てるバスローブをずらしていく。
片方の肩が剥き出しになると、ヴォルフは顔を上げて。真っ赤だ。

「ユー…リ」

熱の籠もった甘い声で名前を呼ばれれば、完全にモードチェンジだ。見上げてくる天使の唇めがけてロックオン。
抱きたくてたまらないけど、それより何よりキスがしたくて仕方ない。

「…」

そっと触れて離す。これはお久しぶりのキス。

「……ん」

間髪入れずもう一度。これは逢いたかったのキス。

「ゆぅ…り」

柔らかい感触の余韻に浸っていると、ヴォルフがおれのバスローブをきゅっと掴んで。
そんな些細な仕草がグッとくる。

「ん…っ」

今度は深く加え込む。これは確かめるキス。ヴォルフが今此処にいるって確かめる、大切なキス。
キスをする度、ヴォルフ不足だった心が面白い位に満たされていく。
舌先に触れる熱い感触に思考が止まっていくのが解る。

「っ…ふ…」

でもそれだけじゃ足りないのは、通じあってしまったから。

「っは…」

唇を離すと、そっと耳に口を寄せる。今なら村田の言葉に全力で頷ける。あぁ、我慢がやっと報われるんだ。

「ヴォルフが欲しい…」

「ッ…ん!」

地球に戻ってからずっと、ずっと思っていた言葉を囁く。ホント、1人で慰めるだけじゃ足りなかったよ。
だから1度しかやらなかったけれど。

「…ぼくも、ユーリが欲しいぞ」

ヴォルフも同じ気持ちだったのなら嬉しいけれど。

「うん…」

抱き締めるとそっとベッドに押し倒す。ヴォルフの柔らかい髪を撫でると、にっこりと微笑まれ、その天使の表情にドキドキする。
そのままバスローブの紐を解き、はだけさせれば白い裸体が露わになり。
それだけで気が早いおれの息子は喜び始める。

「ユーリも…」

ヴォルフの手がおれの腰に伸び、紐を解いてくれる。はらり、と前がはだけると空気が直に素肌に馴染んで涼しい。
そのまま密着するように覆い被さってみる。

「ん…」

ヴォルフに全体重を預ける訳にもいかないのでそのまま横向きになると、抱き締める様な形になる。背をぎゅっと抱くと肌と肌とが密着して、それは風呂上がりで湿ってるせいかしっとりと吸い付く様だ。

「変な感じだな、これ」

「うん…ユーリの鼓動が伝わるみたいだ」

そう言えばおれにもヴォルフの心音が伝わってる。変なの、エロい気分なのに神聖な気持ちにもなってくる。
でもそんな気分に長くは浸っていられない。

「っ…」

膝をヴォルフの股に押し付ける。力を入れずに動かせば微かな刺激にヴォルフの躰が揺れる。

「…ん、」

「こんなんでも感じる?」

聞けば頬を染め、こくりと頷く。あぁ何だよその可愛さは。
脚を絡ませてくるヴォルフに応えながら背中を撫でる。
首筋にキスを落とせば、ヴォルフの躰が熱くなる気がした。

「…ヴォルフあったかいなー」

「ユーリだって温かいぞ…?」

髪を撫でれば熱っぽく返されて。ふと、脚に当たる感触に違和感を感じる。

「ッ」

「…もう勃っちゃった?」

堅くなりつつあるヴォルフのソレに手を伸ばす。包み込むように指を這わせると、背に回された手に力が込められた。

「ゃっ…」

「良い?」

微かな喘ぎが腰にクる。
そのまま手を上下に動かし出すと、ヴォルフは益々熱っぽい声を上げ抱きついてくる。

「ぁ…ぅっ…」

「そんなにくっついちゃ上手く擦れないって」

苦笑しながら言うとハッとした様に手を緩める。耳まで真っ赤にしちゃって、何て可愛いんだろう。

「ユーリ…」

「ん?」

「い、悦い…っ」

…全くもう、おれの婚約者はどうしてこんなにソソるんでしょうか。

「…じゃあイっちゃおうか?」

「あっ、…っ、んっ…」

そんな素直に反応されたら何でもしてあげたくなってしまう。ねとつく先走りを絡ませながら捲る様に擦り上げる。ちゅ、ちゅ、と軽いキスを交わしながら先端を刺激してやれば手の動きに合わせて腰が動くのが解る。

「んっ…っ…ふぅっ…ん」

「そろそろ限界?」

随分熱くなったソレは堅く質量を増し、先走りがたらたらとせわしなく垂れる。
ヴォルフの耳に舌を這わせ胸の突起をぐりぐりと潰す。ここが弱いんだよな。

「っ、やだユーリっ、いっちゃ…!」

「いいよ、イって?」

ちゅ、と耳たぶを吸い上げてヴォルフの顔を見ると、先端を強く擦る。

「やっ…!!」

手のひらに温かい液体が溢れ出すと同時にヴォルフは顔を歪ませ達した。
見てるこっちが申し訳ないくらいエロい表情で。

「っ、はぁっ…っ」

はぁはぁと肩で息を吐きながらヴォルフは泣きそうな顔をする。

「ユーリぃ…」

ドキューンと胸が撃ち抜かれる感覚に耳が熱くなった。その顔で名前を呼ばれたら半勃ちだったおれの息子もフルパワーにならない訳がない。
じんじんと痛みに似た感覚が襲ってくる。

「何…?」

「ん…っあぁ!」

返事をしながらヴォルフの後方に指を伸ばし、蜜に濡れた指を挿入した。久々におれの指が入ったソコは、きゅうきゅうと指を締め付ける。

「ヴォルフ…いっぱい出たね、溜まってた?」

空いた手で腰を撫で回すとヴォルフは顔を赤く染め、おれの胸に手を触れた。

「…ユーリに触られてると思って、自分で弄ってみたけど…っ全然、気持ちよく無かった…」

「……」

…何それ。何それ何それ何それ。

「ユーリ?…顔が真っ赤だぞ」

だって、そんな返事がくるなんて誰が想像するよ!あぁ、思わずちょっと出そうになっちゃったよ。

「ヤバい…おれ、トキメいちゃったよ」

「な、何がだっ?」

そんなさらっと恥ずかしい台詞でソの気にさせちゃうんだから。
改めて婚約者の可愛さに気付いて胸がキューンとなる。

「あーヴォルフ、もう我慢出来ない」

「なっ、ひぁっ…」

指をもう1本埋め込み、うにうにと解しにかかる。直ぐにでも繋がりたいけどヴォルフを泣かせるのは嫌だからここは念入りに。
久々だけど指はヴォルフの中を覚えていて、感じそうな箇所へ導く様に動く。

「っあ、や…っ、ぁ…」

ビンゴ。ヴォルフの表情がエロくなってきた。いつもと違う体制のせいか顔が凄く近くて、ヴォルフの吐く熱い息が肌にかかって熱が増す。
指を足してバラバラに動かしてみるとヴォルフの腰がゆらゆら動きだした。

「は…ァっ、あぁっ…んぅ」

ヴォルフの手がおれの髪を物足りなさそうに梳き出す。解りやすいサインだけどわざと聞かないでみたりして。
するとじれたのか、ヴォルフが腕を掴んでくる。

「ゆー…りぃ」

赤く染まった頬に潤んだ瞳。懇願するような呟きにノックアウト寸前だ。

「何?」

「もっ…あぁっ…」

「どうして欲しい?」

指を引き抜くとにっこり微笑み返す。おれだってこんな意地悪してる暇無いんだけど、ヴォルフの羞恥に滲む顔も可愛くて仕方ないからもう少し見ていたくて。

「ひっ…はやくぅ…」

「早く…何が欲しいか言って?」

優しく促すと、ヴォルフは俯きながら手を下方に持っていく。
ん?何する気…

「ッ??」

ヴォルフが握ってるのはまさしく、おれの…

「ユーリの…これっ…欲しい…っ!」

む、息子さんじゃないですか!
まさかまさかの大胆行動にビクリと自身が脈打つ。

「ヴォルフ…大胆になったな…!」

「うるさぃ…っ、はやく…」

余程恥ずかしいのか目を合わせようとしないヴォルフに愛しさを感じる。
こんな表情を見る度に更に愛しくなっちゃう辺り、おれって重傷なのかもしれない。

「わかったよ」

でも全然、悪くはない。

「んっ…ああっ」

正常位にして脚を持ち上げると、音を立てながら腰を進める。濃い水音が鳴る中でヴォルフが眉を寄せて喘ぐ。

「…ひぃ…んっ」

「くっ…」

締め付けに逆らってどうにか奥まで入れると、ヴォルフの口から長く息が吐かれた。

「ツラい?」

聞けば首をゆっくり横に振る。動作とは裏腹に眉寄ってるけどね。
でもおれだってもう我慢出来ない。

「ヴォルフ、動くよ?」

「あ…ぁん、うごいて…」

「ッ…」

甘ったるい瞳で見つめた上に、そんな台詞言うなんて反則だ。埋め込んだ自身からビクビクと腰に刺激が走る。
ダメだ、気を抜いたら簡単に達してしまう。耐えろ、耐えるんだ。

「っ、あぁっ…はぁんっ」

律動を開始するとヴォルフの躰がしなり、甘い嬌声が漏れ出す。初めてエッチをした日に比べたら随分慣れた様で、ヴォルフもこっちで感じられるみたいだ。
開発した…って言ったら言葉が悪いけど、こんなに艶っぽくなっちゃったのはほぼおれのせいだよな。

「やっ、ぁ…っ、」

「…、」

にしても、こんな可愛くなっちゃって…。こうなったらおれが責任取らなきゃ駄目かな。

「ゆ…りぃ、何考えてるんだぁ…っ」

「…ん?」

「他っ…の男の事かぁっ?」

「…バカ」

こんな場面でも愛人の影を気にする婚約者に自分の幸せを再確認する。
何て言うのかなこの感情。好きとはまた違った、もっと深いもの。

「バカとは何っ…」

吠えようとした唇をそっと塞ぐと、熱い舌を絡めとり、離す。

「…お前以外の事なんて考えねーよ」

そんな事ヴォルフだって解ってるだろ?
恥ずかしくもそう告げるといきなり腕が首に絡まり、後ろがキュッと締まる。

「いっ」

「ユーリ…ゆーり、ゆぅりぃっ…」

震える様な囁きに一気に限界まで引っ張られる。鼻にかかる声でおれの名前を呼ぶヴォルフが愛しくて堪らない。
最後のスパートをかけてガンガン突き上げた。

「あぁっ、んっ…ゃ」

「ヴォル…フっ…」

「はっ、ぁ…も、だめっ…!!」

「くぅ……っ!」

温かいモノが腹にかかると同時に食われそうな締め付けが起こり、ビクビク痙攣しながらおれも果ててしまった。
自分の放ったものが満たしていくのを感じながら幸せな気持ちでいっぱいになる。
あぁ、避妊してないや。ヴォルフが女の子だったら妊娠させてたかも。…相当濃かった筈だし。

「…はぁ…」

「…ゆーり」

「…ヴォルフ、何泣いてるんだよ」

苦笑しながら目尻を拭うと、いつもなら怒る筈のプーは更に表情を歪めた。

「……っ」

あ、あれ?

「え?ヴォルフ?どーした?何か不満でもあった?」

唇を震わせぽろぽろ涙を流すヴォルフに慌てて髪を撫でると、小さい呟きが漏れる。

「ユーリが居ない間…っ、不安で仕方なくて…お前はいきなり帰ってしまうし…」

言いながら手のひらで瞼をこする。

「そしたらいきなり帰ってきてっ…ぼくは凄く腹が立ったのに…」

「…怒ってたの?」

意外な言葉に訊ねるとヴォルフは潤んだ瞳でキッとこちらを睨む。

「当たり前だっ、ぼくを置いてあちらの世界で…ぼくがどんなに寂しかったか知らないで…」

「…うん」

「…でも」

「ん?」

「でもっ…ユーリに会ったら、そんなこと…どうでも良くなってしまった…」

そう言うと、プーの眉が情けなさそうに下がる。

「ユーリに会ったら…嬉しくて胸が壊れそうで…」

「…」

「この…へなちょこ…」

ぐっ、と涙を拭きながら呟かれたその一言が、どんな台詞よりグッときた。
髪を撫でていた手を頬に当てると無意識に言葉が出た。

「…愛してる」

歯が浮く様な台詞は意外にもさらりと口から出たけど、恥ずかしいのは抑えきれず誤魔化す様にキスをした。
触れるだけのキスを落とすと、ヴォルフは放心状態でおれを見つめていて。
あぁ、なんて可愛いんだ。

「ヴォルフ…おれお前が心配だよ」

「は?」

「おれが居ない間、よそ見しちゃダメだからな?」

そのままギュッと抱きしめると、ヴォルフがみるみる内に赤くなる。

「そ、それはぼくの台詞だろう!」

「おれの台詞だよ」

だってこんなに愛しちゃってるわけだし。
ホントもう、重傷だ。

「…愛してる」

「ん?」

腕の中から恥ずかしそうに見上げてくるヴォルフに顔を近付けると、天使の微笑みで見つめられ。

「ユーリ…愛してる」

「……おれも」

確かめる様に囁き合うと、笑いながらまたキスをする。
迎えがくるまでもう少しあるしね。それまでは。



会えなかった時間を満たす様にくっついていようか。






end.