Fan or Lover?
「陛下、ごきげんよう」
「本年もいっそうのご活躍を期待しておりますわ」
「陛下…いつ見てもお素敵でいらっしゃる…!」
「ハイ、アリガトウゴザイマス」
「…陛下、カタコトになってますよ」
「あー!もーヘロヘロ…」
「お疲れ様です陛下」
「陛下って呼ぶなー」
「はいはい」
低く唸りながら超キングサイズの自室のベッドにバタンと倒れ込む。
浅いため息を吐いているとお側役のコンラッドが紅茶をカップに淹れながらいつもの爽やかスマイルを向けてきて。
「久々のパーティーですからね」
「しかもこっち来てすぐだしなー」
新年早々スタツアしたおれは、偶然にも新年を迎えたばかりの眞魔国のパーティーに参加していたのだ。というか強制参加。
おれが来るとは知らされていなかったので、登場した瞬間熱烈歓迎を受ける事になった。そりゃもう来日したスターの如く。
想像以上の騒ぎに危うくカタコトになりかけたおれを限界と察知したのか、コンラッドがギュンターに頼み騒ぐ周りを鎮圧させて。そしてそのまま逃げる様に部屋に帰って来たってわけ。
「はい、紅茶です」
「サンキュ。…にしてもギュンター凄かったなー…」
「いつもより余計に舞ってましたからね」
舞ってるどころじゃない。汁もいつもの3倍量か?って位に出てたし。騒ぎを止めようとしたギュンターが一番騒いでたし。
お陰で美形のギュンターに女の人達がくっついてくれたから逃げれたんだけど。
「それはそれでちょっと寂しいかなー」
「何がですか?」
脱ぎ捨てた学ランの上着をハンガーにかけるとコンラッドが戻ってきた。
「女の人がギュンターの方に行っちゃったからさ」
肩を竦めるとコンラッドが楽し気に微笑み。
「まぁいいじゃないですか。ユーリには固定ファンが多いから」
「固定ファン?」
「そ、ギュンターにグウェンにグレタ」
「あぁ、そういう意味か」
紅茶を飲みながら嬉しくなって笑うと、意味深に見つめられ。
「それにヴォルフラム」
他にも沢山、とつけてコンラッドはおれの瞳を覗き込んだ。
その仕草がちょっとイラつく。
「何だよ」
「何でも?」
何でもお見通しな所が悔しいだけなんだけど。
おれの聞きたい事とか全部解ってる様な素振りが気に食わない。
「……」
「何黙ってるんですか?」
ベッドの縁に並ぶ様に腰を掛けるコンラッドにジト目を向ける。
返ってくるのは望む言葉じゃないと知ってるけどさ、少し位拗ねてもいいだろ?
「……コンラッドは?」
口を尖らせたまま聞いてみる。
だっておれが聞かなければ言うつもりは無いんだろ?
ちょっと悔しいけどおれの負けだ。
「何が?」
折角恥ずかしさを抑えて聞いたのにわざと焦らすんだ、こいつは。
いつからこんなに意地悪くなったんだよ。
「…」
「ごめんごめん」
更に睨みつけると、やっとコンラッドがとぼけるのを止めた。
またはぐらかされたら今度こそ怒ってやるつもりだったんだけど。
「で、どーなの?」
「そんなの、解ってるでしょう?」
そう微笑まれると恥ずかしくて仕方ないんですケド。
「…コンラッドの口から聞きたいんだよ」
また恥ずかしくなるのも解ってるけどやっぱり聞きたい。
…なんておれ、乙女じゃないんだからさー。
「仕方ないなぁ」
満面の笑みを浮かべるコンラッドに噛みついてやりたい衝動にかられる。
だけどその前に、おれの肩に磁石みたいに回された腕に心臓が跳ねた。
「…言っておくけど、俺はユーリのファンじゃないからね?」
その言葉に斜め後ろを見ると熱のある影がふわりと被さってきて。
「ん…−」
重なる唇と同時に滑り込む舌に思考が切断される。
触れてる部分が段々と熱くなる様な感覚で頭がくらくらした。
倒れてしまいそうな体をぎゅっと支えられてしまえば、後はもう何も考えられなくなる。
「…っはぁ」
離れてく気配にうっすらと瞳を開ける。
あれ、いつの間に閉じてたんだろ。
「…俺はユーリの恋人だから」
そう楽しそうに言う目の前の茶色の瞳が細くなる度に胸が一杯になっていく。
やっとピントが合う距離まで離れると、おれは無意識に腕を掴んでいた。
「すき」
「…」
咄磋に出てしまった言葉にコンラッドはおろか、自分自身が驚いた。
「…なんだけど」
その表情を崩せないまま無理矢理言葉を続かせる。
…参った、恥ずかしい!
「…」
「…ど、どう?」
熱を持つ頬を恥ずかしく思いながら首を傾げてみる。
するとコンラッドが笑った。
「−はい」
まるで褒められた子供みたいに。
「……」
「ユーリ?」
…その後益々おれの頬は熱を持っていったんだけど、その理由はコンラッドにはわかるまい。
end.