離さないでね






想いが通じ合ったなら
俺は素直な気持ちを
貴方に投げるよ


受け取ってくれる人がいるって
素敵な事だから







「おはよー!」

自室の扉を開けると、ジャージ姿のユーリが立っていて。元気を持て余すように満面の笑みを浮かべる。

「どうしたんですか?これから起こしに行こうと思ってたのに」

「何か目が覚めちゃってさ、たまには迎えに来てみたり」

へへ、と笑うユーリ。
いつもならこれからユーリを起こしに行って着替えて走りに行って…となる筈だが、今日は珍しい。

「行こうぜ?」

そう急かすユーリに自然に微笑むと庭に向かって歩き出す。それは段々と速さを増し、ユーリに連れられるまま走り出した。




「ちゃんと眠れましたか?」

「ん?」

地を踏みしめながら横を走るユーリに声をかけると、聞こえてるのかそうじゃないのか曖昧に笑いかけられた。

「眠れなかった?」

笑いながら再度聞くと、ユーリは聞かないフリで首を傾げた。思わず笑みが漏れる。

「…まぁ、俺もあんまり眠れなかったんですけどね」

「え、コンラッドも?」

本音を漏らすと、ユーリが驚いた様に、だけど少し嬉しそうにこっちを見た。

「やっぱり、ユーリも?」

見透かす様に笑いかけるとユーリは仕組まれた事に気づき、照れた様に前を向いた。その際少しスピードが上がって、俺はそれに苦笑する。

「あ、笑うなよっ!」

俺の様子に気付いてこちらを向くユーリの頬は赤くて。分かりやすい仕草が新鮮に思える。

「ちょっと歩きますか?」

「え?」

スピードを落としてユーリに聞くと、何故?という顔で見てくる。足はゆっくりと速度を緩めながら。

「その方が一緒にいる時間が増えるでしょう」

そう微笑むと、ユーリの顔が赤くなる。直球で勝負すればユーリはいつだってこういう反応になるんだろうか。

「う、うん」

互いに歩調を合わせて歩き出す。朝の空気はユーリの髪を揺らして、照れた頬を撫でつけている。
急に無口になったユーリの手を捕まえてみると、ハッとした様に見上げられた。

「どうかした?」

微笑みながら握った手に力を込めると、ユーリは口を開けたまま俺の目を見つめて。

「手…」

そんな恥ずかしそうに言葉にするから俺まで照れてくる。

「恋人といったら、コレでしょう?」

ユーリの指に絡ませる様に指を動かすと、ゆっくりそれに応える温かい手。

「…何か照れるんだけど」

頬を赤らめたユーリの口から漏れた本音に、愛しさが溢れる。

「俺も」

思わずそう告げると、ユーリがまた驚いた瞳を向ける。

「コンラッドも照れたりすんの?」

「…そりゃ当たり前ですよ」

俺はユーリにどんな風に思われていたんだろうか。ちょっとショックな気分でいると、ユーリがぎゅっと手のひらに力を込めた。

「じゃあ絶対離さないから!」

からかうように、宣言するように声が空気に響く。俺の目を見つめるユーリは楽しそうに微笑んだ。

「コンラッドも、離すなよ?」

「勿論」

考えるより早く、口をついて言葉が出た。
即答した唇を、ユーリの唇に重ねた。目を瞑る暇も無いくらい早く。

「……ッ」

柔らかい感触をそのままに唇を離すとユーリが丸い瞳で俺を見ていて。

「2回目…ですね」

そう笑うと、一気に真っ赤になった。

「い、いきなりっ…いきいきなりするななよなっ」

「ユーリ、噛みすぎ」

慌てふためく恋人に笑いながら、手を引いて歩き出す。
ユーリは恥ずかしさに少し唸りながら熱を放出させている。

「ユーリ」

「何っ?」

不意打ちのキスにちょっと拗ねたユーリに微笑んで手を強く握る。


「好きだよ」


「………」

瞬間、放出させた筈の熱がまたユーリに集まって。

「…真っ赤ですよ」

「こ、コンラッドがそんな事言うからだろぉー!?」

忍び笑いで呟くと、ユーリの怒った声が空に響いた。






直球で投げれば
貴方は必ず受け止めてくれる

それなら俺は
直球しか投げないから

どうかずっと
俺の気持ちを受け止めていて?




end.