目覚めに見る夢は




眞真国に朝がきた。
閉ざされたカーテンの向こうは光が溢れていて、抱えきれなかった隙間から部屋の中にも入り込んでいる。
ユーリはまだ寝ていた。
ヴォルフはここ数日自分の城に戻っていて、ユーリとしては熟睡出来る日々が続いている。今朝も安心した気持ちの中で、未だ夢の中に居た。


と、その時ドアを開く音がした。ユーリの微かな寝息だけがこぼれる部屋に、ゆっくりと足音が響く。
コンラッドはユーリのベッドの隣まで進み、無防備な寝顔を見ながら軽く微笑む。

「陛下、朝ですよ」

声をかけてみたが、ユーリは無反応だ。

「陛下…」

「陛下って呼ぶにぁ…」

−なんだ。起きてたのか。コンラッドはそう思ったが、どうやらそれは寝言だったらしい。規則的な寝息をたてるユーリはコンラッドの存在には気づいていない。
しかしあまりにもタイミングがいい寝言に、コンラッドは笑みをもらした。

「貴方の夢の中に俺がいるんですか…?」

それは凄く嬉しい事で。
このまま夢を見せてあげていたくなる気持ちを押さえながら、ユーリの名前を呼んだ。

「ユーリ、朝ですよ」

「……」

返事は無く、コンラッドがユーリの肩に手をかけようとした時だった。

「…?」

突然、ユーリが右手をゆっくり上げだしたのだ。しかし顔は確実に眠っている。見ているとその手はまるで誰かに握ってもらいたそうに、宙を彷徨いだそうとしていた。
コンラッドはそっとその手を、自分の左手で握ってみた。
−その瞬間。
ユーリの右手がぐったりとベッドに落ちた。意識無いままの筋肉使用は限界だったらしい。
しかし気を抜いていたコンラッドはユーリと繋いだままの手に引っ張られ、体制を崩した。

「っ、」

右手をベッドにつき、どうにか体制を守る。幸い右手はユーリを跨ぐように着地し、コンラッドはホッと息を吐いた。
しかし。
頬に何か当たるものがある。コンラッドはその確かな温もりの正体を直感で感じ取った。

さっ、と身を離しユーリを見ると、そろそろ夢から覚め始めたところだった。

「…ん…?あ…?」

気の入らない声を出して、ユーリはうっすらと目を開ける。
ぼやけた視界にコンラッドがいた。

「…コンラッド…?」

「はい」

コンラッドはユーリと目が合うといつもの笑顔を浮かべて、カーテンを開けた。さんさんと室内に流れ込んでくる日差しに、寝ぼけ眼のユーリは眩しそうに目を瞑る。

「ま、まぶしー」

「今日は快晴ですからね」

「そっか…いー天気」

ユーリはむくりと起き上がり、気持ちよさそうに伸びをするとコンラッドを見た。まだ瞳はぼんやりしているが、口元はにっこり笑っている。

「…おはよー、コンラッド」

ユーリの唇が自分の名を呼ぶ。



「おはようございます」



左頬に残る微かな温もりを感じつつ、コンラッドは柔らかく笑った。さんさんと降る朝の光を受けながら。



窓の外には青空が広がっている。




end.