恋とはきっとそういうモノなんです
「さて問題です」
俺の部屋に来るなり、あいつは切り出してきた。風呂上りのタオルを肩にかけて、弟のパジャマを着ながら。
「は?」
「これから僕が言う物が何かを当てて下さーい」
ドアの前に立ったあいつは俺の返事も聞かずにさっさと話し始める。
「それを持つと人は悲しくなったり、不安になったりします」
「何だよいきなり」
「それと同時に楽しくなったり、幸せになったりもします」
「…俺の話は無視か?」
あいつは言いながらスタスタとベッドに向かい、腰を降ろす。俺は入室許可も出してないってのに。
「でもそれをもっている限り、良くも悪くも生きる希望が湧いてきます」
そして俺を見て頬を緩めると、さて何でしょう?と聞いてきた。
「…ま」
「あ、それともうひとつ。それは目に見えないものです」
俺の回答を爽やかに遮るとあいつは人差し指を左右に振る。そんなアンダーな答えじゃないってか。
目には見えない…となると。
「心?」
椅子に座りながら目をやると、あいつは楽しそうに首を振る。
「惜しいな、ハズレ」
指を鳴らすとあいつは弾みをつけてベッドから離れて…何でこっちにくるんだよ。
「来るな」
「ハズレた子には罰ゲームでーす」
「お前が一方的に言ってきたんだろッ」
しかしおかしいことに、俺の額に人差し指を当てたあいつは笑った。
「これで勝利さんは動けないよー」
「何…ってあれ?」
不思議だ、なぜだか解らないが本当に体が動かない。指一本でどうして動きが止まってしまうんだろうか。
「じゃあもう一回だけチャンスね」
不敵に笑うあいつ。俺の意見は無視なのか。
「…」
「僕はそれを持っています。勝利さんは…どうかわからないけど」
「?」
「今みたいな発言をするとそれは少し、痛くなったり、します」
「…え」
「でも」
人差し指が離れたと思ったら、代わりにあいつの顔が近づいてきて…。不覚にもキスをされた。
「!」
下唇、上唇、と柔らかく二度啄ばまれて、最後に舌で表面を舐め上げられる。
ゆっくりと離れたあいつ−健の頬は風呂上りのせいか軽く染まっていて。
離れた舌の柔い感触の余韻が残っている。
「…こんなことをしてる時は、胸の中に流れ星が降る気がします」
「…それは」
「それのせいだと、思うんだ」
そう言うと健は俺の瞳を真剣に見つめてくる。
待って。
今、何かが……。
「わかった?」
「…わからない」
嘘。
そう告げるように健は笑った。
うん、その質問に対しての答えなら多分嘘だ。
「コイゴゴロ、だよ」
「…それはわかった」
言うと、笑っていた健が目を丸くした。
どういう意味だ、と言うような表情になり。
「じゃあ、何が『わからない』の?」
「何かわからないんだ」
「え?」
…今、俺の胸の中に降った『何か』が何か解らないんだ。