訊けない事




ふと、聞きたくなったことがある。


「ユーリ」

執務室の机にだるそうに突っ伏している彼に声をかけると、ちらりと目だけをこちらに向けて「何」言った。

「ひとつ、訊いてもいいか?」

「どうぞ?」

何かのついでのように切り替えしてくるユーリに少しだけ、切なさを感じる。ユーリとぼくの間に流れる温度は確実に差が開きすぎている。
それでも訊いてみたかった。


「ぼくが死んだら、どうする?」


できるだけさりげなく言ったつもりだったがちょっぴり、声が上擦った。
しかしユーリはぼくの目を見ると、急に不機嫌な表情を浮かべる。

「どうする…って。そういう質問するなよ」

その表情に侮蔑の色が見て取れて。
途端、胸の奥にどろりとしたものが広がった。

「…そういう質問って」

「おれがこんなにへばってるってのにそんな時にこんな質問さぁー」

こんな質問。

「お前が死んだらそれはその時なんじゃねぇの?」

「……」

違う。

「ユーリは…ぼくが死んだら悲しいか?」

違う。
違う。

「そりゃ悲しいと思うけど…お前が生き返るわけでもないし」

「そうか…」

違う。


違うんだ。


「あーあ、キャッチボールしたいなぁ」

「……ユーリ」


「え?」



本当に訊きたかった事は他にあったんだ。



「…いや、何でもない……」





ユーリ
ぼくがいなくなったら、どうする?