夢であってよ







夢みたいだった。




「好きなんだ」

そう言われて。

「え…」

「…好きだ」

一瞬驚いて、でも直ぐに嬉しくなって、だけど少し実感が無くてつい抱きしめた。

「おれも」

少しだけ手が震えた。
本当に震えた事が恥ずかしかった。
何だこんなに好きだったなんて、なんて何度も噛みしめては…笑顔しか零れない自分が恥ずかしくて目を逸らすと。

「へなちょこ」

そうおれを一喝するヴォルフも笑顔だった。
あぁどうしよう、こんな幸せがあっていいのかなって思った。
頭ん中がきらきらしたモンでいっぱいになって、これまで我慢してた全部を相手に叩きつけたくなって。
手を握るとかキスするとか体を繋ぐとか、そういう事今すぐ全部したくて、なのにそれをする時間も惜しいと思ったんだ。
早く、一秒でも早く一緒に溶けてしまいたかった。
そんで、これが愛なんだって初めて気づいたんだ。






だから
夢みたいだったんだ。


「……ヴォルフ?」




夢みたいだったんだよ。




「…あ、……ぁ」



叫びたくて仕方なかったのに
喉からは何も出てこなかった





「………ゃ…だ」





掠れた声は
涙が連れてくる嗚咽で



消えちゃった










「………どう、し、て」










どうして?

夢なら覚めてよ。











それとも最初から


全部夢だったの?

















泣いている。




ひびが入っていく




音が焦げる








じく、じくと
淀んで



空気が割れていく








もの凄い音で。











「い、……ゃだ」



嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌。





張り裂ける様な嘆きは聞こえなくとも
こんなにはっきりと見えて






「……ぁ…ああああ」





一番に駆け寄ったのは彼なのに、理解するまでには何十秒も費やした。






「…ヴ……ォルフ…」




腕の中の弟はまだ暖かいと、暖かい暖かい暖かい…そう叫んでいた。







何度も
何度も。












黒曜の瞳はずっと瞳孔が開いていて

瞬きひとつしなかった










ひゅう、ひゅうと彼の喉が鳴って







涙が
ぼたぼたと









彼が愛した弟の頬に










流れていった。








2006/1/9、10より。
ある意味修羅場だったときに逃避するように書いたもの。
幸せと絶望は紙一重。。。