育って大きくなること。





何度か解らない位、出会いと別れを繰り返した。

「…さよなら」

国境付近の村で、初めて魔王に会った少女は別れ際に小さく呟いた。
最初は兄達の影に隠れて怯えていた少女も、魔王陛下の気さくさと素朴さに直ぐに慣れ、しまいには憧れに似た瞳を向ける様になっていて。
そして別れの時、少女は寂しそうな顔はしたものの大人しく村の入り口で陛下に手を振った。



「陛下」

「ってゆーな名付け親」

愛馬の背に跨る君主は再会した頃と比べて随分と、馬の乗り方が上達したと思う。
今日の視察も少しずつだが、王としての風格も感じられていて。感心したのは事前に村の現状や問題点を考えていた事だ。気づかぬ内に資料を熟読し、自分なりの意見を筋道を立てて申し出た時は思わず笑みが零れてしまった。

「で、何だよコンラッド」

「ユーリ、さっき村を出る時寂しそうな顔してましたね」

「…まぁね」

「何か思う事でも?」

普段の彼ならもっと楽しそうにまた来るから、と笑いかけるのに。

「んー…おれさ…ちょっと考えるんだ」

「何を、ですか?」

「おれ…自分の意志で行き来出きる訳じゃないだろ?」

「…そうですね」

「だから安易に『また』とか言っちゃいけないのかなぁって」

「…」

「だって、あんな寂しそうな顔されたらさ…」

「はい」

「…何、その笑顔」

「すいません」

「おれ、何か笑う事言った?」

「いいえ、でもユーリ」

「え?」

「…オレは、それを理由にされるのは寂しいです」

「…」

また会おうと言って叶わなかった事も沢山ある。だけどそれで人を責められる権利など人には無いんだ。

「…そんな顔しないでくださいよ」

「だって」

「ユーリは優しいから」

「…何だよそれ」

「今のはオレの我が儘ですよ」

「……」

いつの間に成長していたのだと思った。特に内面的には数ヶ月の間に格段に。
君主の優しさは確実に民に届いている。
実に嬉しく、微笑ましい反面寂しい気持ちもあるが。

「…優しいのはコンラッドじゃんか」

「え?」

「…何でもないよ」

緩めていた手綱を引いてユーリは速度を速めた。
彼が呟いた言葉を小さく思い出して微笑む。


貴方と出会ったから。
貴方の優しさがオレを変えたんですよ。


まだ少年の面影を残す君主の背を照らす夕日の中に寄り添い入る様に、自分も手綱を引いた。




2006/3/14より。
幸せだけが2人に降り注げば良いと思う。次男帰還後希望。