すきときらい
おれは村田と付き合ってる。
だから村田の事は好きだ。
でも、嫌いな部分もある。
例えば、おれが抜き打ちテストで散々な点を取った時、村田は慰めてくれるどころか
「抜き打ちを愚痴る前に勉強しておけば良かったのにね」
と、サラッと返してきた。
そんなん、村田とは頭の出来が違うんだから仕方ないだろー?と胸の中で毒づいてみた。
村田にはおれみたいな頭の悪い奴の気持ちはわかんねーよ、と言ったらそれこそ八つ当たりだと思って堪えたけど。
またある時は、村田が家に来てる時にライオンズのビデオを見ようとしたら物凄くつまらなさそうに
「また見るの?それ」
って。
なんだよ、お前だってサッカーの話になると止まらないくせに。しかもそんなに嫌そうな顔しなくてもいいのにさぁ。
そんなん言うなら帰ればいいだろ、とは流石に言わなかったけれど。
それに今日だって村田は眞王廟に篭りっきりで、折角抜け出して会いに行ったりしても
「ちゃんと仕事してきなよ、僕今立て込んでるからまたね」
そう言って部屋に帰ったんだぜ。
これにはおれもむかっ腹にきてきびすを返して帰ったけど。だけどまぁ、夕方には怒りは収まった。
…こう考えるとさ、村田っておれに対して冷たいよな。
何ていうかさ、もうちょっと優しくしてくれてもよくない?
村田のああいうトコ、嫌いだ。
うん、嫌い……じゃ、無いよなぁ。嘘、嘘なんだ…嫌いってのは。
だっておれ、知ってるんだよ。
村田が1人の時は凄い勉強してる事。学校終わっても図書館で勉強したりしてる。通りかかった時に見たんだ、窓際に座って分厚い本を抱えてペンを走らせてたのを。
それに村田はおれが村田の家に来ている時は絶対に自分の事をしない。いつもおれの近くに居てくれて、おれみたいに勝手に好きな事始めたりしない。
それにさっきのだって…
「あ、渋谷!」
「…村田」
扉の向こうに村田が立っていた。
ヴォルフが居ないのを確認するとおれの側まで来る。
「どうしたんだよ…もう夜だぜ?」
驚きつつも村田を見ると、気まずそうに切り出した。
「…さっきは言い過ぎて、ごめんね?」
「…別に」
「あんな風に言ったら怒るよね…ちょっと嫌な夢を見ちゃって。…本当にごめん」
「…おい、村田、泣いてるのか?」
瞳をうるませて下を向く村田に驚くと、村田は少しだけ鼻をすすって、おれの胸に頭を寄せた。「…村田」
「渋谷が怒って帰っていくの見たら、恐くなった…嫌われたらどうしようって」
「…あんな事で嫌いになる訳無いだろ」
「…ありがとう」
寧ろ嫌われるとしたらおれの方だろう?
おれはこんなに村田が好きで、今だって凄く可愛いと思ってるんだから。
それにさっきのだって、おれに良い王様になって欲しいからだって、頭ではちゃんと解ってたのに。
「…おれこそ、いつも自分勝手でごめんな」
「…しぶや」
ぎゅ、と抱き締めて謝る。顔を見たらきっと上手く言えないから。
それでも言いたかったから。
「…おれ、村田のぜんぶ、好きだから」
いっこだって嫌いになれなくてもいいだろ?
許してくれるだろう?
こんなおれを、村田はきっと笑って。
「…僕も、ぜーんぶ好き」
そうやって、おれを許してくれるから。
多少のいざこざなんてすぐ忘れちゃうんだ。
「…うん」
「しぶや、苦しいよ」
「…もうちょっとだけ、な」
苦笑まじりの村田に有無を言わさず更にきつく抱き締める。
だってまだ、顔が赤いまんまだから。
2007/3/17より。
ユリムラ。
ラブラブな2人に思いっきりハマってた頃でした(笑)