指先から嘘





きみの指先からは変わらぬぬくもりが溢れる
きみの瞳からは穏やかな眼差しが揺れる
きみの唇からは優しい嘘が流れる


その全ては僕のもの。




「好きにしていいよ」

嘘をつきなさい。
それは本音じゃない事位解ります。
そんなに乱れて、僕の前に座って。

「渋谷ったら」

「何だよぅ、好きにしてくれよぅ」

「はいはい、可愛いねー」

「むーらーたぁ」

語尾が何時もと違うのは彼が何時もと違うから。
服を掴まれてぐいぐいと引っ張られたらそりゃ、隣に座るしか無いけどさ。

「有利くーん、一体何を飲んだのかい?」

「えーとね、えーと…忘れちゃった!」

「ばか」

可愛すぎる。
思わずあれだ、ついため息の様に口をついてしまった。
ばか、だなんて僕も相当、甘い口調だよなぁ。

「…ばかとは何だよぅ」

「あーもう、可愛いな渋谷は」

「可愛い言うなー」

テーブルの上のグラスを手に取ると匂いをかぐ。
アルコールはキツくなさそうだけどなぁ。
味はワインというよりかは葡萄ジュース。こりゃ間違って一気飲みしてもおかしく無いな。

「有利ぃ」

「ん?」

「これ、ワイングラスに見えない?」

「うん、おれもワインかと思ったんだけどさー、舐めたら葡萄ジュースだったから」

「…こーのおばかさんめ」

「だってだってー、おれだってこんな酔っぱらうとは思わなかったのー」

「僕も渋谷がこんなにお酒に弱いとは知らなかったよ」

「だって飲んだ事無いもんー」

だからって、そんなしなだれかかられても困るんだけどなぁ。
んーどうしよう、と思いながらも愛しい渋谷である事に代わりは無く、右手は無意識に相手の肩を抱く。

「むらた」

「ん?」

益々体を預けてくる温かい体にどうしようかと目を細めれば、こっちを見る渋谷。

「…けん」

「…はい」

…今、名前で呼んだ。

「…ははっ!」

「え?何だよいきなり」

「…笑うなよぉ?」

「何が?」

「…ドキドキしちゃった」

「…」

「…けんくん、けんちゃん…けん」

「……」

ああ、ああもう、何渋谷?!

「けん、さま?」

「…っ」

「けんさまっ」

「…っ何?」

「わたくしぃーしぶやゆーりは、けんさまのごちょうあいを受けたいのでございますー」

「……ばか」

「何でだよぅ!」

今のは自分に、だよ!
あぁ、不覚だ。
渋谷のせいだこんなの。
渋谷が悪いんだ。
これじゃウェラー卿だってなびくよ?

「…出来ないよ、だって」

「けん」

「…」

「おれはぁ、酔ってるけど嘘はつかないぜ?」

「…わかってるよ」

「おれもさ、たまにはサカっちゃってもいいだろ?」

「サカるって…渋谷、きみの事を心配してるから言ってるのに」

「んだょ、おれがいいって言ってるからいいだろぅ?」

それはまぁ、そうなんだけどさぁ。
だからってこうして据え膳を置かれると…。

「けん」

「え?」

「…しよ?」

「……あー…もう、知らないよ?」

どうなっても責任取らないからね?

「何が?」

「有利が嫌って言ってもやめたげないからね?」

「いいよ、好きにしてって言ったろ?」

あぁ渋谷。きみってやつは本当にもう。

「…可愛いすぎて罪だっ!」

「ひゃあ!」


…こうして僕はあっけなく陥落して、有利を美味しくいただいたのでした。
こんなに我慢したんだからきっちり元は取らせていただきます!
後、アルコールは暫く禁止しなくちゃなぁ…。












2007/1/31より。
ムラユですー。
酔って可愛さ2割り増しのゆーちゃんとムラムラしてどーしよーもない健ちゃん。
ま、据え膳食わぬは男の恥ですわww