おかあさん






記憶の中の
本当のおとーさまは
見えない

記憶の中の
本当のおかーさまは
名前を
くれたの



「グレタ」

優しい声で、髪を撫でる指先はグレタのより少しだけ大きいと知っている。
寝台に近付いて、柔らかく額に落ちる唇も知っている。
昔と変わらないのは、グレタを悲しくさせて暖かくさせるのよ。

「…グレタは寝てるのか?」

「あぁ、長旅は疲れたらしい…もうすぐ成人だがやはり子供らしい寝顔だな」

「どれどれ…本当だ」

優しく覗く黒い瞳はグレタを愛で包んでくれる。
悲しい夢も沢山見たけれど、いつしかそれも見なくなったの。
それはおとーさま達のお陰だってグレタ、まだ言えてないけれど。

「しっかし、ヴォルフとグレタが隣に並ぶと同年代みたいだよな」

「見た目はな、ユーリだって大差は無いだろう」

「まぁな…なぁ、ヴォルフ」

「ん?」

「…グレタもお前より早く、成長していくのかな」

「…さぁな」

「そうしたらおれ、いつまでグレタの側で笑ってられるんだろ」

あぁ。
止めてそんな話。
グレタはいつまでも、おとーさま達の側にいるよ。
陛下のお嫁さんになりたいと打ち明けたその日から、グレタはずっと二人の側に居たいと思うのよ。

「…そういう事はグレタが決める事だ」

「…だよな」

「ぼく達に出来る事は、グレタの見る夢が幸せなものである事を願うだけだ」

おとーさま。グレタはもう幸せな夢しか見れないのを知らないのね。
おとーさま達に出会った事で、全てが変わった事も。

「…幸せな夢、見てるかな。おれ達のお姫様は」

「見てるに決まっているだろう」

「…グレタ」

暖かい。
暖かな優しさで包まれる事がこんなに幸せな事だって気付いたから。
グレタはずっと、昔の面影を探さないよ。

「…おやすみ」

おかーさま。
名前をありがとう
本当のおとーさま。
おかーさまを愛してくれてありがとう








2007/1/1より。
ちょっと大人になったグレタとロイヤルカポーなおとーさま達。
幸せをかみ締めると涙が出てくると思います。