硬玉は純な程白いんです。
「俺と別れてくれませんか」
一瞬、彼は持っていた羽ペンの動きを止めた。
顔を上げると互いの瞳が合う。
漆黒の中に、純粋な硬玉を見つけた気がした。
「…どうして?」
「あなたは子供過ぎる」
目を見てはっきりそう告げると、ユーリはまた羽ペンを持ち直し顔を机に向け、直ぐにまた顔を上げる。
「わかった、別れよう」
芯の通った声はやけに部屋に響いた。
そしてユーリは、また書類にサインをし出す。
「……引き留め無いんですか?」
「引き留めても返って来ないんだろ?」
今度はもう、ペンの動きも止まらない。代わりに笑みを含む口調でたしなめられ。
「…そうですが…」
「うん。それにコンラッドが決めた事だ、よっぽどだったんだろ?」
事務的にサインをしながらさらさらと言葉を放つ。まるで世間話でもする様に。
「…はい」
「だったら、尚更だ」
ふと手を休め、一口紅茶を飲んで彼は俺を見る。
そしていつもの様に笑う。
「ユーリ、あなたは」
「悪くない筈無い」
「でも」
「おれは、コンラッドが最後まで優しく無くて良かったって今思ってたんだぜ?」
「…」
「それに、さっきのはコンラッドの本心だ」
だろ?と優しく声が届く。そのまま立ち上がると彼は俺の側に来て。
「な、今からキャッチボールしないか?」
「…はい」
「じゃ、おれ道具持ってくるから中庭でな」
にっこりと笑うユーリにそのまま頷くと、彼は俺の横を通り過ぎた。
どうして。
「ユーリ」
腕を掴み、振り向いたユーリと目が合う。
瞬間、彼が怯んだのが解った。
「…離し」
「どうして?」
「……」
少しキツく言っただけなのに彼はあっけなく涙を滲ませた。
「赦して下さい」
「な…」
「愛してるんだ」
俺の方がよっぽど子供。
「…」
「お願い、引き留めて…ユーリ」
涙が彼の頬から、線の様に零れる。
「…嫌だ」
声は震えていた。
「ユーリ」
「嫌だ、嫌だコンラッド…おれの近くに居て」
その言葉が苦しくて、悔しくて抱きしめた。
ユーリが胸の中で嗚咽を漏らすと、どうしようも無く泣けてきた。
「ユーリ…ユーリ、ご免なさい。ご免なさい…」
俺の背に手を回したユーリは何も言わなかった。
ただ泣きながら、何度も背を撫でていてくれて。
それが死にたくなる程切なかった。
2006/5/17より。
エゴイストで甘えたな次男。ユコンみたいですね。。。