山程の嘘とひとつの×
こんな感情、無ければ良かったのに。
何度と無く押し寄せるこの気持ちは渦を巻く事の出来ないまま、遂に溢れだしてしまった。
ひゅ、と喉の奥が小さく鳴って。
上手く行かない、あぁ全然上手く行かなくてそんな自分に嫌気が差した。
まともな思考を持つ事をあんなにも欲していたのに今はそれが邪魔をする。
どうして。何で。
そう訴えてくれればこちらだってもっと。
壊したい位に燃えられた筈なのに。
「…何が欲しい?」
回された腕が首に絡んだ瞬間、僕の思考はフリーズした。10年前のMacintoshの様になった僕に微笑む妖艶な瞳は、僕の姿を捕らえると離さないとでも言うように潤んだ。
「好きにしてもいいのだぞ?」
これは「彼」の身体なのだから、ときみは言う。まるできみを欲する僕を嘲笑うかの様に。
本当は欲してるくせにわざと平気な振りをするのはお互い昔から変わらないくせに、生意気だ。
「じゃあ、殺しても?」
「出来るものなら」
「…それなら、犯してやるよ」
「心だけは渡さぬぞ?」
「何てロマンチックな台詞」
髪に指を差し込むと、倒れ合ったベッドが急に沈んだ気がした。震えが来る様な高揚感は、雄の目覚めってヤツ。
食らってしまえ。
犯してしまえ。
それが例え「彼」の身体であろうと、今だけはきみのものだから。痛みを存分に与えてあげる。
「欲しいんでしょう?」
「お主こそ」
この馬鹿のこの性格には本当に嫌気が差すけど…我慢出来ないのも事実。
舐めあげた唇に滲むのは唾液という甘い媚薬で。それを分け合う熱が高まるのがセックスだ。そう、全てはここから。
「きみが嫌い」
どんな言葉だって意味を為さないなら嘘を吐こう。
「余とて同じだ」
わざと余裕ぶるのはお互い同じなんだから。
それならいっそ微笑んで。
このまま沈んでいってしまえばいい、もっと深くて湿っぽいところへ。
どうせ鳴くのはそっちなんだから。
「嘘をつく子は嫌いだよ」
「…嘘をつかずに生きていくことができると思うのか?」
「うん、出来ないと思うね」
大事な大事な親友の体に無理をさせるのは申し訳ない気もするけれど…。
「それならお主は、お主自身を嫌うのか?」
「…ちょっと、黙ってくれない?」
噛み付く歯に感じる柔い感触が狂おしい。
「余はお主の…」
「五月蝿い」
…どうせ痛みを感じるのはこの馬鹿なんだから、この際たっぷりと犯してやろうか。
こんな感情が生まれてしまったのがそもそもの間違いだったのだから。
「…きみは黙って僕に犯されれば良いんだよ」
そうにっこりと微笑んでみるときみはとても無邪気な振りで笑った。
それが心底憎くて愛しいと思ったのは
共鳴し合う魂のせいだろうか。
emd.