地上の天使


 

 

 





おれは恋をした

地上の天使に

それは世界が

壊れる程の










ヴォルフが好きだと気付いたのはつい数時間前のこと。
いや、もっと前だったのかもしれない。本当の所はよくわからないんだ。
この気持ちは実はずっとずっと前から胸の奥に潜んでいて、時が来るのを待っていたのかもしれない。そう考えたら自然と口元が緩んだ。

春も夏も
秋も冬も思えば
いつだってヴォルフがいたんだよな、ってぼんやり思った。

そういや春に、城の中庭で侍女さんと花の種を蒔いてたら凄い形相で怒鳴られたっけ。浮気者!って言われて侍女さんが泣き出しちゃって。その後はコンラッドに仲裁してもらって事無きを得たけど大変だった。

夏にヒルドヤードに行った時もヴォルフが船の中で酔っちゃって、着いたら今度はお酒飲んで酔っちゃって酷かったな。

秋に栗拾いに行ったらコンラッドと栗について話してただけでイガを投げられて。あれはかなり痛かった。

雪が降った時はグレタと3人で雪だるま作って、ヴォルフがしもやけになっちゃってうるさかったっけ。しかも風邪まで引いて、おれとお見舞いにきたグレタにうつっちゃって3人して薬湯を飲んでた時は熱があるのに楽しくて。

…なんだ、こんなにもヴォルフが日々の中に居たんだ。



こんなにも、おれはヴォルフの側に居たんだ。





そんで、知らず知らずの内におれはヴォルフに惹かれてたんだ。
わがままで怒りっぽくて、たまにそれが心地良いと感じてたのは全部、この気持ちの為だったなんて。
今、やっと気づいた。
随分と遠回りしたよな、おれ。



もっと早く気づけていたなら、きっとそれ以上に楽しかったかもしれない。
でも気づかなかったからこそ、おれはいつもと変わらないおれをヴォルフにさらけ出せていたんだよ。





そしてヴォルフがそんなおれに愛想を尽かさず

側に居てくれた事実に感謝するよ















『ユーリ…』

最期におれの目を見て、ゆっくりと微笑んだヴォルフ。
おれはそれを見上げながらじっと目を見開いて。

『ヴォルフ…』

もう何も言わなくていいよ、と言いたいのに胸が詰まって何も言えなかった。

『ユーリ、ぼくは…』

そう呟いたヴォルフはそっとおれの唇に触れて。





それは世界で一番、暖かかった












『…好き、だ』

心の奥から沸き上がった感情を言葉にしたら、ヴォルフは怒りもせず怒鳴りもしないで只、微笑んだ。
それが余りにも苦しくて、溢れだす涙を止められないでいるとヴォルフは笑った。まるでグレタのわがままを聞いている時の様に眉を下げて。

『泣くなへなちょこ…』

それがヴォルフがおれにくれた、最後の言葉だった。










おれはあの夜
初めて好きな子と
キスをしたんだ















ヴォルフ

もしおれの背中に
羽が生えたなら真っ先に
お前の元に行くから








そうじゃなくても
きっと
お前とまた巡り会うからだからそれまで
どうか



どうか、元気で。














好きだよ

おれの大事な

地上の天使。








end.