待ってて
貴方だけじゃ
迷ってしまうから
そこで少し待ってて?
−夢の渕に、貴方は居た。少し戸惑った顔をしながら座っていて。
「ユーリ」
胸が高鳴るのを抑えながら声をかけると、はっとしたように顔を上げ。
「……コンラッド」
感情を抑えた様に小さく呟かれた言葉に、俺は微笑んだ。
「…ただいま」
すると、ユーリの瞳が丸くなって。
「ただいま…?」
「はい」
信じられない、という表情に笑いかけると、ユーリに近づく。
「…陛下の元に帰ってきました」
「う…そだろ?」
立ち上がるユーリに寄りながら首を横に振ると、目の前で立ち止まる。
「俺はもう、貴方の物だ」
「え…」
「俺を…許して下さい」
長い間、ずっと触れられなかったユーリに手を伸ばしていた。触れたくて触れたくて…仕方なかった貴方の、温かい手をそっと握る。
「そんな…何で?」
ユーリの目が泳ぐ。動転しているのか、瞳が滲んできた。
「貴方の傍に居ますと…前に言ったでしょう?」
だから…戻ってきたんです。そう付け加えると、ユーリの瞳が揺らめいた。
「…もう、何処にだって行かない?」
「えぇ」
笑いかけると、ユーリが俺の服を掴んだ。見上げてくるのは泣き出しそうな表情で。
「…ずっとずっと、おれの傍に居てくれるの?」
「…はい」
「……っ、コンラッドぉ…」
ユーリの瞳から涙が零れ落ちて、俺の胸に飛び込んできた。
背を抱きしめると、懐かしいユーリの匂いがした。
「ばかっ…おれがどんなにコンラッドにっ…会いたかったかぁ…っ」
「…ごめん、ごめんユーリ」
泣きじゃくるユーリの頭を撫でて宥める。きっと、ずっと泣くのを我慢していたのだろう。せきを切った様にユーリは涙を流す。
「っ…コンラッド…」
確かめる様に名前を呼ばれ、胸の奥が痺れる。もう二度と、悲しい顔なんてさせたくない。
「ユーリ…泣かないで」
「だって…だってぇ…」
涙で濡れた頬のまま顔を上げるユーリに、そっと唇を重ねた。
「んぅ……っ」
2、3回啄むとそっと離し、目尻の涙を舌で拭う。ユーリの頬に朱が差し、涙が止んだ。
「…二度と、離さないから」
微笑むと、ユーリはゆっくりと頷く。
「うん…」
長い間途切れていた約束を手繰り寄せて、ユーリは俺の手を握った。
「離さないでね…」
迷子にならないように。
探し疲れてしまわないように。
「…勿論」
俺はしっかりとユーリの手を握った。
1人にさせない為に。
「おれ…此処に居て良かった」
「…ユーリ」
「本当は、コンラッドを待ってたんだ…」
「俺が貴方を独りにするわけないでしょう?」
ユーリに微笑みかけると、嬉しそうに笑った。それは俺が望み続けていたあの頃の笑顔で。
「そっか…」
この笑顔を見る為なら、どんな事だって出来る。そう解ってたんだ。
だから今、貴方の傍に戻ってこれた。
「…じゃあ、行きましょうか?」
「うん」
目を合わせて微笑み合うと、どちらともなく歩き出す。ゆっくりと、ただ前へ。
繋いだ手は、もう離れはしないから。
2人だけの世界で、ずっと幸せでいよう。
貴方だけじゃ
迷ってしまうから
そこで少し待ってて?
俺もすぐに行くから。
end.