花吹雪





この世が甘くて
綺麗で幸福じゃない事はよく わかってる

全部が
自分の為だけにあるなんて幸福論
もう 子供じゃないし
遠い話さ





「なあ、村田!誰だ今の子っ?」

「え?あ、渋谷」

「見てたぞ、2人で歩いてるの!まさか彼女とか?」

「えーと…うん、まぁ」

「嘘!いつの間にでき…っげほ!けほっ…げほっ」

「あーあーむせちゃって」

「ごめ…っ、水っ…けほっ」

「ほら、水飲み場」

「助かった…っ……うわはっ!?」

「うわ!ちょ、っとー!」


****



「っ……またか…」

「あぁ…眞魔国だね」

「ユーリ!猊下!」

「陛下!…げ、猊下!」

「ギャ!ギュンター血がッッ!」

「ずびばぜんっ…お二人のあまりの麗しさにわだぐじつい…」

「陛下、大丈夫でしたか?」

「あ、うん!…って、陛下って呼ぶな名付け親」

「っと、すいません。…ユーリ、おかえり」

「ただいま」

「猊下も、おかえりなさい」

「…ただいま」

「あ、そういやヨザックは?」

「あぁ、ヨザックならあそこに」

「あら坊ちゃん、お呼びになりましたぁ〜?」

「あ、ヨザック!久しぶりだなっ」

「ええ、坊ちゃんに会えてグリ江とっても嬉しいわぁーん」

「ははっ、おれも」

「あら、猊下もお久しぶり〜。元気にしてました?」

「うん…まぁね」


春 さんざめく 
今 きみに逢う


「こっちは何か変わった事あった?」

「いえ、特に大きな事はないんですが…今回は珍しいですね」

「そっか…なんでだろう?」

「きっと俺がユーリに会いたいって想ってたから、願いが通じたんじゃないかな」

「へっ?な、何だよそれ…」

「渋谷赤くなってるよー」

「ううるさいっ」

「ユーリ、後で俺の部屋に来てくれますか?」

「……っ、うん…」

「渋谷よかったねー」

「だだだからやめろっ、茶々入れるのはぁっ」

「相変わらずだね、ユーリは。…そっちは何かありましたか?」

「おれ達?うーん…特に無い…あ!村田に彼女が出来たんだよな!」

「え?」

「何がえ?だよー、こっちに来る前に可愛い子と歩いてたじゃん」

「…あぁ、あの子」

「へぇー、猊下に春が来たんですかぁー、よかったですねぇ」

「…………うん」


花 咲き誇る
胸 隠れ咲く

ちくり 痛む


「?どうかしました?」

「ううん、別に」

「…そうですか?何か悩んでたりするとか」

「そんな事無いよ」

「村田、ヨザックー?何立ち止まってるの?」

「あぁ坊ちゃん、悪いけど隊長達と先に行っててくれます?後から行きますんで」

「…えー?どーし」

「ユーリ、じゃあ先に行きましょうか。ギュンターの血も見苦しいし」

「なっ、見苦しいとは何ですかっ」

「でも村田がー…」

「早くユーリと2人っきりになりたいんだけどな」

「なっ!もー…わかったよ…じゃあ村田、先行くなー!」

「え、渋谷ちょ…」

「猊下」

「…何?」

「……猊下、どーしたんです?」

「…だから別にどーもしてないよ?」



桜に似た花は風に舞い
きみの髪を只弄ぶ
じっと じっと見やれば
薄紅色が胸を揺らす



「オレには猊下が苦しんでる様に見えますがね」

「………」

「あっちで辛い事でもあったんですか?」

「………」

「………猊下?泣いてるの?」

「……ううん」

「どうして…」

「あんまり…花吹雪が凄いから」

「花吹雪……あぁ、今は春ですからね」

「……ヨザック」

「…何ですか?」

「…………僕ね、彼女が出来たんだ」

「…ええ」

「…うん……それだけ」

「………」



右へ 左へ 進む
季節を運ぶ風は 僕の
想いだけをそっと隠し
前へ 後ろへ 流れる



「…上手く、いってないんですか?」

「ううん…」

「じゃあ…何か不安事でも?」

「…そうだね」

「オレは、今どうしたらいいんですかね?」


花 舞い落ちる
故 ただ 微笑む


「じゃあ…城まで…一緒に行こう?」

「そしたら猊下、元気になります?」

「…きみが望むなら」

「……げい」

「なんてね、言われなくても元気になるよ」

「…オレは、猊下の笑顔を望みますよ?」

「……、うん…」

「じゃあ笑って下さい」

「……うん」

「…その方が良い」

「そうか…な」

「ええ、景色に良く映えます」

「景色?」

「オレ、春は好きなんです」


止めど無く 溢れる
景色には 色が付く
染め上げる 至上の人


「…ありがと」

「…城に着くまでには泣き止んでくださいよー。坊ちゃんが心配しますし」

「大丈夫…花吹雪が凄いだけだから」

「…春ですからね…」






まるで 人生は
メリーゴーランド
緩いリズムで同じ場所を
回り続けるだけ

後悔と 苦しみを
何度も繰り返して
同じ場所に
また あらわれる


唱えた幸福論は
ずっと僕を苦しめる


それでも

ぼく きみ あいしてる



また 春に会いましょう



end.