炎の中で見る夢は









「しぶやっ」

猛る炎の中で名前を呼んだ。
言葉が思いつかなかったわけでもない。
叫ぶセリフならいくらでもあったし、それ以前にそんな状況じゃなかった。
でも叫んでいた。
何度も、何度も。
喉の粘膜が焼き尽くされる痛みを覚えても、渋谷の名前を叫んだ。
貼り付く声が溶かされても、そんなのどうでも良い。
そう、全ては自分の思い込みだ。

『どうせお前も弟も、俺を憎んでいるのだろう』

意識が消える数十秒前、彼が残した言葉に応える事はしなかった。
その答えを言える人はもういないのだから。
そんなの、彼だって判っていると思うけれど。

「ゆうり…」

ただ、名前を呼んだのは。
こうして唱えていれば渋谷の側に辿り着けるんじゃないかっていう単純で本気の願いだったりもする。
彼の身に何が起こっているのか、そんなのは解らないけれど。
これを抜ければ少なくとも、渋谷の居る世界に行ける。
一刻も早く、側に行きたい。
僕の大切な王。
たいせつなひと。

『行ってしまえ。お前の新しい王の元へ』

少なくとも、君が思っている程君はあの人に嫌われてはいなかった。
そして君と同様に、彼だって後悔していたんだ。
側にいたかった事。
傷つけたくなかった事。
同じ世界を、生きたかった事。
その理由なんて僕が言うべきでも無い。全部今更だ。

「…っ」

僕の気持ちだって、今更見つめ直すものでも無い。
最初っから、いとおしい存在。
有利、君の元へ。

「…っぁ…」

叫びはもう掻き消される。
意識の欠片だけが物凄いスピードで消滅していく気がした。







砂マ発売前の最後のあがき(笑)まるであなたの瞳の色のネタバレかましてます…