わかちあうもの





「おれは、最後の日が来てもきっと、側にいるよ」

そう言ってユーリは、ぼくに笑いかけた。




古さを感じられる、青い石碑。
その正面に立つと、いつだって感じられる。
声やしぐさは、掠れてしまったけれど。

「ユーリ」

もう、彼の名前を呼ぶのは自分しかいない。
第27代魔王陛下。それが今のユーリの名だ。
強く、優しく、麗しくて、気高い王だったと、皆は口をそろえて言う。
思い出ばかりを残して、世界から消えてしまった事を嘆いては。

「…また、来るからな」

最後に残ったのは、自分だけ。
最初にいなくなったのは、最愛の人だった。
最期はとてもとても、優しい顔をしていたのを覚えている。
まだユーリが少年だった頃に交わした約束を、その瞬間まで忘れていなかった。
ありがとう、そう小さく呟いてユーリはぼくのいる世界から消えてしまった。

「ヴォルフラム様」

「…来てたのか」

あの頃と同じ黒髪。
相手は自分に礼をすると、にっこりと笑ってみせた。
聡明な表情にどこか幼さが混じって、ユーリを思い出した。
こんなに時が経ってもまだ、ユーリは残っている。

「…はい、27第魔王陛下の石碑には、よく来ていますから」

自分を知る起源だと相手は言う。
柔らかく瞳を伏せて、自分を見つめる。
その虹彩に滲む深い黒に込められた想いを、ひしと感じてはいる。

「そうか」

「魔王陛下は偉大な方でした。身寄りの無い僕にあんなによくしてくれて」

ユーリを失って本当に長い時間が過ぎた。
その時間の後、たくさんの近しい者も老いて自分の前から去っていった。
ユーリが生きている間に、戦火に殉死する者もいた。
その悲しみは誰にだって、分かち合えないのに。
目の前にいる青年は、苦しみを得た瞳を持っていた。

「ユーリは、全てを愛していたからな」

「ええ、それにヴォルフラム様を何よりも、愛していましたよ」

いつだって記憶の扉なんてものは簡単に開いてしまうと知っていた。
ユーリがぼくを、想ってくれていた日々。
手に触れた感触は、ユーリとは違ったけれど。

「ヴォルフラム様」

「…お前は、ユーリじゃない」

「それでも、いいんです…」

「ぼくの全ては、ユーリにしかわからない」

「…わかってます」

黒髪が風に揺れた。
苦しんでいる姿は、とても美しいものだと感じる。
首を振ると相手は、小さく呟いた。

「…今なら、言えるって気がしたんです」

自嘲する様な言い方。
でも、涙を堪えた言い方。
時を越えて、愛してくれる人がいるなんて思いもしなかったから。

「…それなら、最期の日はお前の側にいよう」

そう遠くは無いその日を、一番捧げたかった人はもう、いないから。
あの時ユーリがくれた言葉に同じ気持ちだと言えなかった後悔も含めて。

「…ヴォルフラム様」

「お前は今の言葉の意味も、解っているんだろう?」

きっと違う世界で今度はずっと側にいれるのであれば。
次に会う時までに妬かせておこう。
そして、それまではたくさんのユーリを、共有出来るように。

目の前の青年の手を取り、石碑の前で唇を落とした。









end.


補足:ユーリよりはるかに早く、村田が世界から消えている設定。
補足2:ユーリは地球時間の速さで年を取った模様。
補足3:ヴォルフ、人生初の浮気です。
補足4:2つの器にまたがっての恋。
補足5:記憶で好きになったのもあるけれど、たまたま同じ人に恋をしたという。
すいません完全に</捏造>です!!