空が泣く






ひらりひらり、風が吹く
ぽとりぽとり、空が泣く
まるで誰かを、慈しむかのように。



指を絡ませて僕らは寝た。
分かりあえたからではなくて、共有したいと思ったから。
夢の中ならまた会えると、信じてみたかったから。
ふたりなら、それが出来るんじゃないかって。
ひとりでは、駄目だったから。

「……ん」

渋谷は、あれから一度も見ていない。
今日もまた、見れなかった。
僕を呼ぶ声も、大事だった笑顔も。
最後の光景さえも、残っているのに。

「…」

「あ、おはよう」

隣の彼に笑いかけると、繋いだ指を離した。
きみに触れられなかった右手は今でも、ここにある。
助けてあげられなくて涙を拭いた右手は今もこうして、きみを待つ。
抱きしめてあげたいのに、触れる事さえ叶わない。
今なら、何だって言えるのに。

「…ユーリは、現れなかったな」

「分かってた事だけどね」

寂しい顔はお互い様だ。
寂しいこころもお互い様。
寂しい
寂しい
ふたりだとふたりぶん、寂しいだなんて知らなかった。
渋谷が今の僕らを見たら、何て言うかな?

「…ぼく達はいつまでこうしてるのだろうか」

「…いつまででも、かなぁ」

「ユーリが居なくなって何年も経つのに」

「それこそ、きみのお兄さん達だって…」

「…誰だって、か」

「うん」

大事だったこと、失いたくなかったこと、一緒にいたかったこと。
何も言えないまま消えてしまって、置き去りにされてしまって。
言えたとしたらきみはあんな無茶をしなかった?
死ぬなんて許さない、そう言えたらきみは躊躇してくれた?

「…猊下」

「何?」

「ユーリの事、全て覚えているか?」

「…さぁね」

どちらが良いのかなんて知らない。
お互いがお互いの記憶を羨むのであればそれこそ、人らしい。
共有したかったこの先の記憶はもう、無いけれど。

「…本降りになってきたな…」

指はまだ温かくて、きみに触れられなかった日を想う。
羽があれば、と確かに聞いた、生ぬるい夜。

「渋谷が降らしてるのかな?」

「…」

「冗談、だよ」

窓の外は雨が降り出してきて
それだけでも皆きみを想う。
記憶に残るのは最後にきみが、笑ってくれたこと。
ありがとうって、笑ってくれたこと。
それは星の綺麗な夜で、もう二度と、朝が来ない様な気がした。



渋谷、渋谷。



羽はもう、手に入れた?






フェザーと何となくリンクしてるらしい。