きみを想フ




曼珠沙華の花が咲く。


まっ赤な まっ赤な
花が咲く。


戻ってきて 戻ってきて。


もうこんなに まってる。













「…くそっ、何で目覚めないんだ!」
「手は全て尽くしました。後は陛下のご気力にかかってます」
「なぜ…こんなことにッ」
「閣下、少しお休みになられては」
「うるさいッ!!」







「ユーリ、何をしてるんだ…。早く目覚めろ」
「………」
「何故目を閉じているんだ、早く開けろ」







「閣下、陛下は時が来ればいずれ自然に目覚めますので…」
「いずれ、とはいつだ!来る時とはいつだ!何故ユーリは目覚めない!」
「……、」
「……すまない、お前のせいではないのに」
「いえ…閣下のお気持ち、お察し致しますわ」







「…この…へなちょこめ…皆に心配かけて」
「まるで…楽しい夢を見ているようですね……」
「現実の方が数千倍楽しいぞ……」
「………そうですね」







「閣下、陛下にとお花をお持ちしました」
「あぁ…赤い、綺麗な花だな」
「棘があるので注意してくださいね」
「……ユーリ、お前に似合いそうな花だぞ」
「………」
「目覚めたらまた、この花をお前にやるからな…きっとよく似合う……」






「…ユーリ、なぜ目覚めないんだ」
「………」
「お前を待ってる奴が沢山いるんだぞ?」







「おい、ヴォルフラム。そんな所で寝るな」
「…兄上?」
「お前、ちゃんと食べないと体を壊すぞ。少しはしっかりしろ」
「でも、ユーリが」
「ユーリの事も心配だがお前も心配だ。ずっとつきっきりだろう」
「……ユーリが、目覚めないから」
「…ユーリは絶対、目覚めるから」







「ユーリ、雪が降ってるぞ…お前雪を見たがってたじゃないか……」
「………」
「お前…何をしてるんだ?ぼくの気も知らないで…文句の一つも言えやしない…」
「ヴォルフラム」
「…あぁ、ギュンター」
「陛下は…まだ意識が戻る気配は…」
「全く、だ。このへなちょこは寝起きも悪いらしい」
「ヴォルフラム…」
「何だ?」
「無理して…笑わなくてもいいんですよ」
「…無理…してなど」







「おとーさまぁ…」
「心配するな、ユーリは絶対目覚めるから」
「ちがうよ、ヴォルフおとーさま…」
「ぼくの事は気にするな。ぼくはここにいるだろう」
「ううん……おとーさま、いっちゃうんでしょう?」
「…どうしてそれを」
「いやだ、いやだよ…グレタを…1人にしないで…」






「雨が上がったか…、あ、虹だ…」
「………」
「ユーリ、虹だ…お前にも見せてやりたいくらいの…」
「………」
「手も頬も暖かいのに…どうして目を開けてくれないんだ……まだ、結婚もしてないんだぞ?」
「………」
「虹が消えるまでに目を開けないと……ぼくは泣くぞ?」







「ユーリ」
「………」
「ユーリ……目を開けてくれ」
「………」
「頼む…もう一度だけ、…笑ってくれ」







「おとーさま…」
「いい子にしてろよ、ぼくはすぐ帰ってくるから」
「いかないで…」
「泣くな、泣いたらユーリが悲しむだろう?」
「だって……」
「ぼくがいない間にユーリが目覚めたら、代わりに説教してやってくれ」
「うん……おとーさまぁ……」
「ほら、涙でぐしゃぐしゃだぞ」







「じゃあ…行ってくる」
「………」
「ぼくが戻る前には…目覚めてろよ?」
「………」
「なぁ……目を開けろ、ユーリ…なぁ…」












緋寒桜は咲くけれど


未だ恋しき名は聞かん


まっ赤な まっ赤な
花故ど


きみの元には


伝わらん。







end.