ははっ
優しい季節だった。
窓が開いていた。
風が囁いた。
「ねぇ、きみがいなくなったら誰が一番悲しんでくれるだろう?」
おれは黙った。
ずっと黙っていた。
おれの傍にいつもあって、おれを唯一安心させて居てくれたものはきっと彼の愛だったのかもしれない。
思えば出会ってその日から彼はおれのことをずっと気にかけてくれて、心配してくれて。
それは恋愛感情で言うところの愛なのかそれとももっと、いとおしいものを大事にするところでの愛なのか、おれにはよく解らなかったのだけれど。
いや、確信がもてなかったと言う方が正しかったのかもしれない。だって、そんな風に愛された事なんか今まで家族だけにしかなかったのだから。
「…」
好き。
大好き。
…愛してる。
好意の言葉ばかりを受け取るようになったおれはその分、そんな周囲に感化されて素直になったのかもしれない。
地球に居るときは特別な言葉だったものが今では当たり前の様におれに向けられる。
それは居心地が良くて、どうしてもっと素直に生きれないのかと日本人根性を恨んだときもあった。
それでも今は、愛情のキャッチボールはなかなか上手く出来ていると思っている。前よりかは。
例えばグレタとか、コンラッド、ヴォルフ、グウェン。村田は地球のおれも知っているからなかなか恥ずかしいけれど。
だけどおれは、彼に対してはどれくらいの愛を返せていたのだろう。
「…おれがいなくなったら?」
「そう、きみがもし、死んでしまったりしたならば」
「皆、悲しんでくれるんじゃないかな」
「同等に?」
風は笑った。少なくともおれにはそんな風に見えた。そうじゃないだろう、と。
本当に目を凝らさないと見えないものはおれの心の中なんだよと、言われた気がした。
その中にある誰かを恋しく想う気持ちは、曇っているからよく見えないのだとも。
外は少し涼しくて、暖かな日差しが降り注いでいる。
優しい季節だ。
「…お前には、おれの心の中が見えるの?」
「きみよりはちゃんと見えないけれども、きみよりはきみの気持ちを知っているよ」
「だったらどうして、今更」
「だってそれは」
風が吹き抜けた。
穏やかだったそれは急に速度を増し、前髪をからかうように撫でる。
いや、それは確かに痛さを伴う衝撃だった。
「いまになってもきみがほんとうのきもちからそむけつづけるからじゃないか」
目を。心を。
おれの弱さにわざと塩を塗るようにそれは痛くて苦しくて。
そうして風はいなくなった。
違う、きっとおれの前にはおれしかいなかったんだ。
「ははっ…」
最後は自嘲気味に笑って、額に手を当てる。
おれの求めていたものはこんなに近くにあったのに。
今はそれがあんなに遠い。
end.
思えばギュンターだけが最初から陛下の(わかりやすい)味方だったなーと思います。