ひまわり





花を買った。
大きなひまわり。
昔はその辺にボンボン生えてただろう花は今や花屋の店先で値段と価値がつけられていて。
ちゃんと胸を張っているらしいけど、やっぱり綺麗にラッピングされた花束の方が見目もいいし、需要も多いことも皆知ってる。
きれい事だらけの世の中なんて、ないものねだりだ。

「勝利さん」

道でばったり、彼に会った。
久々では無かった。ついこの前も、その前も思い出せるくらいの間隔で顔を合わせている。
なのに偶然、という出会いは久しぶり。彼も少し、意外な顔をしていた。

「村田か、何してんだ」

「勝利さん、これ」

ひまわりの、ひまわりだけの花束を差し出して笑った。
訝しげな顔をしつつ、彼は受け取ってくれる。

「ひまわり?」

「うん、今から行こうと思ってたんだよ、渋谷の誕生日だし」

少し眉を寄せられて、思わず笑ってしまう。
単純で正直で、勝利さんも大好きだ。

「そう、じゃあお前が持っていけよ」

「ううん、勝利さん渡しておいてよ。僕これから用事があるんだ」

軽く微笑むと、それ以上彼は何も言わなかった。
じゃあね、と逃げるように挨拶をするとひらひらと手を振る。
家に着くと直ぐに水の中に入って、渋谷が待つあっちへと流されて行った。





「ごめんね、遅くなって」

野で摘んだ白くてか細い花を、幾つも右手に持ちながら丘を歩いた。
いつもの黒い学生服は暑いから、上着だけ脱いできた。
護衛は離れて付いているのが解る。多分彼なんだろうけど、それは特に支障も無い。

「さっき、勝利さんに会ったんだよ」

幾つかの小道を遮りながら緩やかな小川に辿りつく。
穏やかな風が、吹く。

「渋谷にってひまわりを渡したらね、難しそうな顔されたよ。よっぽどきみの事が大好きだったんだね」

右手を小川の水面にかざして、ぱっと手を離す。
ばらばらと花は水の上に散って行った。
それを見ながら、小さく笑う。

「こっちでもひまわりを育てたから、きみの大きい方のお墓には沢山飾っておいたよ」

ひまわりみたいだ、そう思ったから。
きみへのイメージは今でも拭えないまま。
数年前には赤く染まっていたこの川辺も、今では何事も無かったの様に水を運び、緑を生やし。

「あ、花だ」

そしてまた花が咲いている。
きみの婚約者が悲しみで燃やし尽くしてしまったこの地に、また命が戻ってきている。
生きているみたいに。

「…渋谷」

まるで、生きているみたいに。
その花は力強くてどの花屋で売っているものよりもキレイだった。




ねぇ、渋谷

きみがいなくなって、さみしいよ。





end.


裏誕生日話ですみませ…