きみを見ル




曼珠沙華の花が咲く。


まっ赤な まっ赤な
花が咲く。


戻ってきて 戻ってきて。


もうこんなに まってる。













「ゆーうーりー」
「なーぁーにぃー」
「いっしょ、あそぼう」
「うん、あそぼー」



「だあれ?」
「ゆーりだよ、なかよく、しよーね」
「よー…しく」
「うん、よーしくね、ゆーり」
「こっちは、うぉるふ」
「うぉーふ、よー…しくね」
「おいで、こっち」



「あのねー、おしろ、うぉるふの」
「うぉーふの、お、しろ」
「ゆーりのは?」
「ゆーたんの、お、しろ?」
「ゆーりの、おしろは、ここ」
「うぉるふといっしょ?」
「うん、ここ」
「ゆーたん、うぉーふといっしょ?」
「うん」
「ずーっと、いっしょ?」



「…くそっ、何で目覚めないんだ!」
「手は全て尽くしました。後は陛下のご気力にかかってます」
「なぜ…こんなことにッ」
「閣下、少しお休みになられては」
「うるさいッ!!」



「ゆーり、おいで」
「まっ、て、」
「はやくー、ゆーり」
「うぉーふ、………、まっ、て」



「このはなは、バラ」
「ばらー?」
「うん、とげに、きをつけて」
「うぉーふ、みたい」
「うぉるふ?」
「うんー、うぉーふみたい、きれー」



「うぉーふ、こっち、ばら」
「ばらー?」
「うぉーふは、ばら」
「ありがとー」
「ばら、きれー」
「ゆーりも、きれー」
「あいがと」
「……も、きれー」
「みんな、きれいだね」



しゃんしゃん
しゃんしゃん
しゃんしゃん



「…ユーリ、なぜ目覚めないんだ」
「………」
「お前を待ってる奴が沢山いるんだぞ?」



「ゆーり、いーもの、あげる」
「なぁ、に?」
「はなの、たね」
「たね?」
「うえたら、おはなが、さくんだよ」
「おはな、たくさん?」
「うん」
「じゃー、うえ、る」



「はな、たね」
「うえるのー?」
「うん、うぉーふも」
「うん」
「い、つ、さくの?」
「たくさんねたら、さくよ」
「そー、かぁ」
「ゆーり、たね」
「うんー、あい、うぉーふの」
「ここ、うめるのー」
「ゆーたんの、これ」
「ゆーりは、ここね」
「……の、これ」
「うん、ここにね」
「ねー、おみずは?」



「おい、ヴォルフラム。そんな所で寝るな」
「…兄上?」
「お前、ちゃんと食べないと体を壊すぞ。少しはしっかりしろ」
「でも、ユーリが」
「ユーリの事も心配だがお前も心配だ。ずっとつきっきりじゃないか」
「……ユーリが、目覚めないから」
「…ユーリは絶対、目覚めるから」



「まっしろ、だ」
「ゆーり、ゆき」
「ゆきー、すき?」
「うんー、ゆーりは?」
「ゆーたんも、すきー」
「うぉるふ、ほら」
「あー、ゆき」
「ゆーりも、ほら」
「つめ、たー」
「うぉるふ、ゆきたべるー」
「うぉーふ、ゆき、おいしー?」
「おいしー」
「ゆーたんも、たべ、る」
「うぉるふ、たべさせてあげる」
「あーん」
「あんま、いれちゃ、だめだよ」
「つめたー」
「おいしー?」
「うんー、おいしー」
「よかったね、ゆき」



りん りん りん
りん りん りん
りん りん りん



「おとーさまぁ…」
「心配するな、ユーリは絶対目覚めるから」
「ちがうよ、ヴォルフおとーさま…」
「ぼくの事は気にするな。ぼくはここにいるだろう」
「ううん……おとーさま、いっちゃうんでしょう?」
「…どうしてそれを」
「いやだ、いやだよ…」



「うぉーふ、みて」
「あー、にじ」
「きらきらー」
「うんー、いち、に、さん、しぃ、ご…たくさん」
「うんー、たく、さんー」
「にじ、あめあがりに、かかるんだよ」
「あめー、つめたー、のに?」
「うん、はれたら、にじがかかる」
「あれはーうぉるふの?」
「みんなの、だよ」
「ゆーたんの?」
「そう、みんなの」



「ユーリ」
「………」
「ユーリ……目を開けてくれ」
「………」
「頼む…もう一度だけ、…笑ってくれ」



「はなの、め、でた」
「あー、ほんとー」
「すくすく、そだちますよーに」
「ますよーに」
「よーに」
「ゆーり、みずあげよー」
「じょー、ろ、どこ」
「はい、じょーろ」
「あーがと……、」
「ここー、ここー、ここー」
「うんー」



「じゃあ…行ってくる」
「………」
「ぼくが戻る前には…目覚めてろよ?」
「………」
「なぁ……目を開けろ、ユーリ…なぁ…」












緋寒桜は咲くけれど


未だ恋しき名は聞かん


まっ赤な まっ赤な
花故ど


きみの元には


伝わらん。







end.