隣に並んで




本当はずっと、側に行きたいと思ってたんだ。


「お前、いつもこっち側歩くのな」

その言葉に前に向いていた視線をさっと隣に移す。
いつの間に揃うようになった歩調は、同じ様で実は僕の方が少しゆっくり。

「そうだっけ?」

言い返しながら考えてみれば、渋谷と歩く時はいつも同じ側を歩くことに気付いた。
そうか、だからいつも同じ側に微妙な熱を持つんだ。
少しでも触れたくて彷徨うのはいつも同じ指先。
ふっと笑えば隣の相手も同じ様に笑った。

「そうだよ、だからおれはいつもこっちで鞄持ってるんだ」

「え?」

少し間抜けな声で返せば知らなかった?という様に口元を少し上げたすまし顔。
知らなかった、という様に頷けばそのままはにかむ形のいい唇。
あぁ、なんて顔するんだよ。

「やったね」

「何が?」

「村田が今まで気づかなかった事、発見」

得意気な口調につい頬が緩んだ。
心臓が軽く跳ねて、心の底から湧き上がってきたのは甘い痺れ。何ていうか、きゅううってするカンジのやつ。
こんな気持ちを感じるのはどういう事かってくらい、幾ら僕だって解る。

「本当、気づかなかったよ」

「もう結構隣で歩いて来たのにな」


…あぁ、そんな事言うなよ。

「…そうだっけ?」

「うん。…ま、お前の隣で歩くのももう当たり前ってカンジだけど」

「……」

「村田?」

急に返事が無くなった僕の方を見る相手に気づかれてはならないと、次の瞬間僕は盛大にくしゃみをした。
勿論、ぽっぽしてしまった頬を隠すために。
渋谷はそれに一拍置いてから『おっさんくしゃみ』と声を上げて笑ってたけど、僕は鼻をこすりながら早く頬の熱が逃げてくれないかと思うばっかりだった。


…悔しいけど、今のはダイレクトショットだよ。