秘密の合言葉




『好きだよ』

そう初めて言った日からもう何度、その言葉を口にしただろう。
でも飽きることが無いんだ、昔から言われ続けてきた愛の言葉なのに。
不思議だねって渋谷の肩に寄りかかったら、何が?って返された。

「こうしていることが」

そのままもたれる様に体重を預けていくと、渋谷もずるずると倒れていって。
2人して苦笑しながら壁に寄りかかった僕等は、変な格好で地面に着地する。
ひんやりとした床の感触に体制を変えると、渋谷の膝目掛けてダイブした。
体温が通う好きな人の肌は、あたたかい。

「…こうしていること?」

起き上がった脚に少しだけ頭を浮かせてまた沈めれば、示し合わすように指が前髪を梳く。
戯れる様に絡ませれば、湿っぽい指先が熱を発して。
連れ去るように伸びをすると自然に笑みが浮かんでくる。
ねぇ、首に腕を回したらどんな反応するのかな。

「うん」

考えどおりに両手を伸ばしてぎゅうと抱きついてみた。
思ったことはもう遠慮することは無いんだから、と心の中で呟いてみれば成る程、驚いた瞳と目が合う。
別に待つ気も無いからそのまま引き寄せて僕からキスをした。
ちゅ、と上出来な音を立てて腕を解くと、惚けたままかと思っていた目はちゃんと閉じられていたらしい。
やだなぁ、どんどん順応していってるじゃないか。

「…そうかもな」

薄く開いた唇から少し控えめに声が漏れた。
多分何を意味するのかは解ってないんだろう、自信が無いときはいつだって声が小さいんだから。
それでもその顔を見るだけで嬉しくなってしまう僕は駄目なんだと思う。
現に最近、好きって言いたくて仕方ない。

「好きだよ、渋谷」

見渡す世界には渋谷ばっかり。
今だって熱くなりそうな頬を抑えて、余裕っぽいトコを見せながら言ったんだ。
僕はもしかするときみより子供なのかもしれないな。

「…何だよ、いきなり」

面食らったような表情の後、真っ赤になる渋谷にこんなにも満たされる自分が居る。
あぁ、こんな些細な言葉で心が得られるのだから飽きることが無いのかもしれないな。
その証拠にほら、頬が緩むのを抑えられない。

「渋谷は、僕の事好き?」

笑いながら聞いてみると、見上げた先の恋人は更に頬を染めてはにかんだ。

「すき」



そのたった2文字に僕の心臓はこれでもかって位跳ね上がるんだから。







結論付けるなんて野暮なこと、何千年かかったって出来ないのかもね。